カジノロワイヤルの手帖

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最近読んだ本のメモ(2023年11月 その2)

ミステリとか怪談ばっかり読んでいます。

 

「ジェゼベルの死」クリスチアナ・ブランド(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

 

初読。近年本邦での再評価が著しいクリスチアナ・ブランドですが長編は初めて。素人芝居の舞台上という衆人監視の中で行われた殺人。しかも舞台上の人物は全員甲冑を着込んでるので誰が誰だかわからない、という設定が謎の装置として上手く、終盤のどんでん返しに次ぐどんでん返しの畳み掛けもすごい。余りに畳み掛けすぎてて結局どれが真相だったのか迷うフシもなくもないですが、読み返すとちゃんとしているので安心です。語り草なのがメイントリックで、大変巧妙かつ恐ろしいという一粒で二度美味しい優れもの。これは傑作。他の長編も読みたいぞ!

 

 

 

「怪談の悦び」南條竹則編・訳(創元推理文庫

 

怪談の悦び (創元推理文庫 (555-01))

 

だーいぶ前に買ってちょっとだけ読んで放置してたのを読了。古い洋物怪談の短編で、本邦ではあまり知られていない名作を編者自身が訳したアンソロジー。やはり日本の怪談とはどこか恐怖のツボが異なるらしく、怪談というよりもダークファンタジーと呼びたいものが並びます。こなれた訳文ですがどこかしら古色をおびていて、戦前の翻訳かなと思ったりしましたが平成の刊行でしかも編者は当時まだ三十代でした。むむ、やりおる。

 

 

 

「猫は知っていた」仁木悦子講談社文庫)

 

猫は知っていた 新装版 (講談社文庫)

 

初読。昭和三十年代。病院に下宿することになった仁木兄妹は引っ越しそうそう殺人事件に巻き込まれ、頭脳明晰で冷静な兄・雄太郎、行動力のある妹・悦子の二人は探偵として活躍するのであった、という話。松本清張以前の探偵小説でありながら、ゴシックな館も因業な一家も出てこないという和製コージーミステリの走りかと。朝ドラに探偵要素が入ったような雰囲気ですが、伏線の張り方やロジックの立て方が細かく、大きなトリックよりもプロットと細かい技で編み上げていくスタイルなので、日本のクリスティという評価はかなり正しいと思います。著者と主人公の名前が同じなのはクイーンと同じですが、こちらの著者は病のため学校に通えず、実兄から教育を受けて育ち、寝たきりの病床でこれを書き上げたという逸話があります。どうしても作中の兄妹と実在の兄妹を重ね合わせて読んでしまいますが、実在の兄は学徒動員で戦死しており、颯爽として頼れる作中の兄の姿は夭折した兄の投影だったのかもしれず、そう考えて読むとなかなかに切ない。

 

 

 

「ぼくらの時代」栗本薫講談社文庫)

 

新装版 ぼくらの時代 (講談社文庫)

 

初読。「ぼく」こと栗本薫はバイト先で遭遇した女子高生連続殺人事件に巻き込まれます。TVスタジオでの衆人監視化での第一の殺人、その容疑者がすべてスタジオ中にいたため逆に犯行が不可能となる第二の殺人、そして密閉された音楽スタジオでの第三の殺人、という事件をバイトの大学生3人が追う、という話。ミステリ部分はスピーディな展開と不可能興味で読ませますが、この本の眼目はそこではなく、若者と大人の間にある溝をミステリを通して描くことでした。1978年、作者が20代半ばの頃、同世代の若者の苦悩が等身大で描かれております。さすがに45年の年月の隔たりは大きく、今となっては若者描写もクラシックなものになっちゃいましたが、大人世代との互いの無理解というテーマは今現在でも共通するものがあります。また、アイドル産業の闇や今で言う「推し活」の負の側面も描いていて、これは45年経った今現在も変わりませんね。

 

 

旧版の講談社文庫で読めたのがちょっと嬉しい