カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近観た映画のメモ(2023/12)

スケアクロウ』(1973)監督:ジェリー・シャッツバーグ(12/2)

 

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初見。神経質で喧嘩っ早いジーン・ハックマンはムショから出たばかり。人懐っこくて道化者のアル・パチーノは性別も知れない我が子に会いに行く途中。出会った二人があちこちで騒動を起こしながら友情を深めていくロード・ムービー。というとなんだか気楽で愉快な道中を想起しますがアメリカン・ニューシネマ全盛の1973年ですからそんな愉快な話であるはずもなく、着たきり雀で無銭乗車を繰り返す大変しみったれた道行です。金もなく、ヒッチハイクや日雇い労働をしながら旅を続ける二人の間にいつしか分かち難いものが育っていくのですが、侘しい道中だけに二人が次第に友情で結びついていく過程に無理がなく、最初は粗暴で他人に心を開かなかったジーン・ハックマンも次第にアル・パチーノに感化され、売られた喧嘩を笑いに昇華させて場を収める、というような人間的な成長を見せます。

 

スケアクロウ」とはカカシの意味ですが、カカシのように道化ているアル・パチーノも、粗暴に生きているジーン・ハックマンも、別に好んでそうしているわけではなく、それぞれの処世術としてそんな生き方を選ばなくてはならなかったらしい。この世知辛い世の中で持たざる者が生きていくためにはカカシになるか暴力に走るしか無い、という諦観がうかがえ、場面のはしばしから隙間風のようなうら寂しさが漏れてきます。喜びと悲しみ、おかしみと沈鬱さが入り混じった味わい深い映画でした。

 

 

 

地球の静止する日』(1951)監督:ロバート・ワイズ(12/3)

 

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初見。1950年代のアメリカにある日突然空飛ぶ円盤が来襲、中から奇妙な服に身を包んだ男としもべのロボットが現れます。男はご近所の惑星からやってきた者でクラトゥと名のり、地球の諸君は最近核開発をすすめているのでこのままだと宇宙全体に危機をもたらす存在とみなされてしまう。そうなったら君らは滅ぼされる。ついては世界中の元首と合って直接話をしたいので全員呼んでくれんか。クラトゥのしもべロボはパッと見麦茶の入ったヤカンみたいにツルッとしてますが目から何でも蒸発させるビームを出してちょう強いため人類はビビります。しかし国家元首を全員そろえろったってそりゃ無理でしょ。と渋っていたところ、クラトゥは恐るべき科学力で地球上のあらゆるエネルギーを30分停止させ世界中をパニックに叩き込み人間側に翻意を迫るのでした、という話。地球外の知的生命体と人類とのファーストコンタクトを描いた最初期のSF映画で古典中の古典ですが、古典すぎて現代の眼で見るといろいろ素朴過ぎるのがつらいトコです。しかし昔からSFは社会不安を映す鏡でもあり、とくに当時の東西冷戦、核開発競争の不安が直接的にこの映画をつくる動機となっているのは明白です。

 

超科学力を持つ宇宙人が人類に警告を発する、という主題の映画はこのあとも手を変え品を変え出てきますが、警告を受けた人類側では科学者たちが集まってそれに真摯に応えようとするなど、当時の科学と民主主義への信頼が素朴な形で現れていて、この頃は今に比べて人類も純心だったと思わされます。今同じようなことが起こったらどうか。世界は一つにまとまるどころか逆に2つか3つに割れて争い始めるのではないか。というような暗い事まで考えてしまう。クラトゥは人類に向けて最後の警告を発して去っていきますが、それに対して人類がどうするのか明確に答えを描かないまま映画は終わり、これはきっと観客に答をゆだねているのだなあと。ただの見世物ではなく、人類の来し方を考えさせる啓蒙的な映画でもありました。

 

 

 

ゴジラ-1.0』(2023)監督:山崎貴(12/6)

 

ゴジラ-1.0 [CD盤]オリジナル・サウンドトラック

 

現在公開中。戦後間もない復興途中の日本にゴジラ来襲!という弱り目に祟り目映画。絶賛の感想がチラホラ聞こえてきて、かつ米国でもヒット中というので気になって観てきました。日本のCG技術は年々良くなってきてましたが、今作はかなり完成された域に達してます。水や瓦礫の表現など非常にリアル。単に実写そっくりというだけではなく、迫力や巨大さといったデフォルメが十分効いたリアルさで、ゴジラのアクションや破壊描写も含め、本邦の怪獣映画としては一つの到達点と言っていいと思います。

 

内容ですが、戦後すぐを舞台にしていることもあり、戦時中の価値観を引きずった、滅私と自己犠牲を美徳とする方向性だったらどうしてくれようと心配でしたが、その点杞憂だったのは良かった。ホッとしました。ただしもうスキあらば泣かせよう涙を絞ろうとしてくるそのサービス精神(?)の圧はちょっとカンベンしてと思いました。神木隆之介は熱演。序盤の安藤サクラゴジラより怖い。ただゴジラが結局何しに出てきたのかがよくわからない(核実験との関連は示唆されてますが)のがちょっと不満。これが弱いとゴジラが単なる神木くんのトラウマを克服させるだけの装置になりかねず、この点はドラマ的にけっこう重要だと思います。