カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

水スペ感『カプリコン・1』(1977)

カプリコン・1 [Blu-ray]

主演のジェームズ・ブローリンは一時期4代目ジェームズ・ボンドに内定してたそうです

 

 

監督:ピーター・ハイアムズ。出演:ジェームズ・ブローリン、エリオット・グールド。人類初の有人火星探査ロケット「カプリコン・1」。その発射直前、まさにカウントダウンが始まるぜというタイミングで、パイロットのジェームズ・ブローリン以下三名は突如連れ出され、砂漠の真ん中に軟禁されます。その間に無人となったロケットはズドンと発射されてしまいました。どうすんのこれ。と思ってたらNASAの偉い人登場。実は二ヶ月前にロケットの生命維持装置に重大な欠陥が見つかった。このまま打ち上げたらキミらは死ぬ。でもここで計画を延期したらただでさえ風当たりの強い宇宙開発計画に予算がつかなくなるかも知れん。ついてはこのまま無事打ち上げ成功した体で計画を続行するからなにぶんよろしく。火星着陸の瞬間はこっちに用意したセットでつつがなく演じてもらうから大丈夫!口あんぐりのパイロットたちは当然抗議しますが、ことはすでに政界の思惑にも及んでおり愛する家族を人質に取られてしまいました。マジかよ…といやいやセットで火星着陸の瞬間を演じる3名。

 

 

アポロ計画の月面着陸は実は真っ赤な嘘で、あの有名な中継映像は実はセットで撮影されたものだ。なお撮影にはキューブリックが関与」という陰謀論、都市伝説は根強く流布され続けておりますが、それにヒントを得たと言うか、逆にこの映画が都市伝説の元なんじゃないの?というレベルでそのまんまですね。制作に協力していたNASAは当初ノリノリでしたが映画の中身を知ると態度を硬化させたという逸話があります。そもそもよく協力を依頼したなと。この内容でNASAに「ぜひ協力を」と言えるプロデューサーの心臓の鉄っぷりがすごい。見習いたい。

 

 

3人のパイロットは複雑な気持ちで茶番を終えますが、さて火星から帰ってくるカラのロケットは大気圏に再突入すると耐熱版があっさり壊れ空飛ぶオーブンと化します。当然乗っている3人はこんがり焼き上がることになり、砂漠の真ん中でくだをまいていた彼らはこの瞬間生きてるだけでたいへんまずいガイズになってしまったわけです。身の危険を感じた彼らはジェット機を奪って逃走。生き残りをかけた逃避行が始まるのでした…。

 

 

『オルカ』との同時上映で1978年の正月映画として公開され、私も親に連れられて見に行ったクチでしたが、もののよく解っていない幼稚園児にも何となく楽しめるエンターテイメントでした。もちろん大人になってから見ると、いろいろな政治的陰謀が絡み合った後ろ暗い話にサスペンスとアクションが乗っかっててさらに楽しめます。

 

 

ジェット機は燃料不足で砂漠に不時着。三人はそこからバラバラに逃げ出します。一方、生真面目なNASA職員からのタレコミで独自の調査を始めた新聞記者のエリオット・グールドは敏感に陰謀の匂いをキャッチ。真相を暴くべく関係者へのアタックを開始しますが、行く先々で車のブレーキが壊れたり狙撃されたり家の戸棚にコカイン置かれて警察にガサ入れされたりと散々な目に会います。ここで諦めずマムシのように事件に食らいついていく記者をエリオット・グールドが毛穴から70年代粒子を拡散しながら好演。ジャーナリストかくあるべしですね。

 

 

そのいっぽう、ちりぢりになった3人はロクな装備も無いまま灼熱の砂漠で消耗して一人また一人と消されていきます。ここのサバイバル描写もなかなかハードですが、頭上からハゲタカのように迫ってくるヘリの機影がまた怖く、無機質なメカでありながら殺意を持った死神にも見えてくる演出がなかなかうまい。監督は当時新人だったピーター・ハイアムズ。こういう男臭い娯楽映画が大好きなのかフィルモグラフィーには『カナディアン・エクスプレス』とか『アウトランド』とかそれっぽいのが並んでます。『テレフォン』の脚本もこの人。

 

 

そして忘れちゃならないのがジェリー・ゴールドスミスの音楽!これですよこれ!血湧き肉躍る重厚なテーマ曲ですが、我々の世代としては一聴するだけで水曜スペシャル」のテロップが脳内再生余裕。川口浩探検隊の見世物感あふれるワクワク(とガッカリ)が心中を去来します。本邦でこのような番組に二次使用されたことを果たしてゴールドスミス先生は知っていたのかどうか。なんかホントすいません。

 

 

音楽だけでこのスペクタクル感!

 

 

映画がそのような水スペ感に包まれるのをものともせず、最後は壮絶な飛行機チェイスを経て、宇宙飛行士の葬儀のシーンでエンド。と思いきや…。痛快な娯楽性と政治へのシリアスな不信感を両立させて終わるという、この頃のアメリカ映画の渋さを体現したような映画でしたよ。なお因業そうな飛行機パイロットとしてなんとあのテリー・サバラスがゲスト出演。小型機をブンブン乗り回して最後の大アクションにいっちょ噛みしておりたいへん楽しそうでした。