カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近観た映画のメモ(2023/10 その2)

サボテン・ブラザーズ』(1986)監督:ジョン・ランディス

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30年ぶり2回め。20世紀初頭。野盗に襲われるメキシコの小さな村。そこの村長の娘っ子は用心棒を雇うべく街に出てきて荒くれ者を募りますが相手にしてもらえません。たまたま入った活動写真屋で目にした派手な衣装の正義のヒーロー「スリー・アミーゴス」。彼らが実在すると信じた娘っ子は映画会社に電報をうちアミーゴスに助けを求めます。一方アミーゴスは制作会社をクビにされ途方に暮れていました。電報をショーの依頼と誤解した彼らは金と仕事を求めてメキシコに旅立つのですが…。というコメディ。アミーゴスは背の高い順に、チェビー・チェイススティーブ・マーティンマーティン・ショートの3人組。古き良き時代のアクションコメディを目指したとおぼしき作りですが、笑いのツボが我々日本人には伝わりにくく爆笑アンド爆笑というわけにはいかないのがツラいところ。しかし雰囲気や牧歌的な話は古き良き時代のそれをうまく伝えていて、笑う代わりにほんわかした気持ちになれる優しい世界の一本。仏頂面のくせに楽器をもたせると甘く歌うチェビー・チェイス、面妖な身のこなしに満面の笑顔が不審なスティーブ・マーティン、背の低さを真面目さと可愛いげでカバーするマーティン・ショートという三者三様の個性が生きております。牧歌的なコメディと思いきや、突然「歌う木と透明の騎士」みたいなナンセンスギャグも挟んでくるので油断できません。そういえば大学の先輩が、『プラトーン』を観に行ってお通夜みたいな気持ちになっていたところ、同時上映のこの映画で随分と救われたと話してたのを思い出すなど。

 

 

 

『オデッセイ』(2015)監督:リドリー・スコット

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初見。事故で火星に置き去りにされてしまった宇宙飛行士のマット・デイモンですが、残された設備と植物学者としての知識、そして諦めない心を武器にたった一人でのサバイバルを敢行、4年後に来るはずの次期探索隊を待つのであった。という寂しがり屋の人は泣いて土下座するSF。マット・デイモンの一人芝居で二時間半持たせるのか〜すごいな〜、なんて思ってたら、絞った知恵で地球との連絡に成功し、遅いくるハプニングを乗り越えつつ、地球では救助のプロジェクトが地球規模で立ち上がって全世界が注目、というやたら盛り上がる映画に発展し仰天でした。サバイバル生活も「いやいやそんなにうまくいくもんかしらw」というところと「いやいやこれムリでしょw」というところのバランスがよく、一難去ってまた一難を知恵と科学で乗り切っていく飽きさせない展開が見事です。あと地上スタッフとしてショーン・ビーンが出てきたので、いつ裏切るのか、いつ死ぬのかと映画とは関係ないところでハラハラしてしまうなど。チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーも出てましたがこの人なんとなく榎本佑に似てるとおもった。

 

 

 

夜は短し歩けよ乙女』(2017)監督:湯浅政明

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初見。周囲の人を巻き込みつつ興味の赴くままにわが道を歩く黒髪の乙女。彼女に思いを寄せつつも距離を縮められない男子大学生。二人が京都の街で出会う4つの奇想天外な冒険、というファンタジーですがこれは傑作!各冒険が酒に古書に学祭という個人的にド好みのテーマの上、狂騒的なストーリーとそれをチャーミングかつダイナミックに魅せるアニメーション、キュートで魅力的な登場人物、平凡だけど悶々としている男子大学生の内面の戯画化と映像化、それをたった一夜の冒険にまとめあげた脚本と、どれを取っても唸る出来栄え。映像はややもするとドラッギーですがスッキリとしたキャラクターデザインや魅力的な美術のおかげで品の良さを保ってます。観たあとに甘酸っぱい気持ちに浸れる愛すべき一本。自分の大学時代に重ね合わせながら観ちゃったよ。そして湯浅政明監督はもっと国内でメジャーになってしかるべしでしょう。評価の高さにヒットの大きさが追いついてない感じです。次回作を楽しみに待つ!

 

 

 

『卒業』(1967)監督:マイク・ニコルズ

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初見。ベン君は将来を嘱望される若者ですが、大学を卒業したもののどうも将来の目標がもてず、溺愛してくる両親の期待も重く、鬱々としていたところを父の同僚の妻であるロビンソン夫人に誘惑され、躊躇するものの思い切って童貞時代からテイクオフ。ただれた関係にずるずる溺れていましたが夫人の娘のエレーンと出会ってフォーリンラブ。どうすんのこれ。というお話。あまりにも擦られすぎてテカテカになってる感のある有名なラストシーンですが、そこに至るまでに、両親を始めとする周りの大人から受けていた束縛、期待、無理解、身勝手が積み重ねられていて、ベン君が花嫁姿のエレーンを教会から奪い去る場面には大変カタルシスがあります。勉強して偉くなって結婚して立派になるんだよ、あるいは早くいいとこにお嫁にいって幸せになるんだよ、といった決まりきった道を目指さざるを得なかった当時の若者の鬱屈を吹き飛ばすようなシーンで、これはウケただろうなあ。ただ、教会から逃げ出してバスに飛び乗った二人の表情が、笑顔からだんだん不安げなものにグラデーションしていくあたり、そんな夢みたいなカタルシスだけで人生は出来てないんだよと思わせるのがアメリカン・ニューシネマの味ですね。とはいえ全体的にはとぼけたコメディ味もあって、ベン君ことダスティン・ホフマンが背伸びして童貞を捨てるあたりのドギマギ感やチグハグさが妙におかしい。