カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近見た映画のメモ(2023/10)

『パラサイト 半地下の家族』(2019)監督:ポン・ジュノ

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初見。ポン・ジュノは『殺人の追憶』が大変面白かったのですが、今作も黒い笑いとサスペンスと社会批判が高度に組み合わさった上にめっぽう面白いという傑作でした。とくに中盤からの物語が全く先が読めず、それが破滅的なカタストロフに至ったあと、ヌルッと気持ちの悪い結末を迎えるあたり、唸ります。なんとなくタッチが『殺人の追憶』に似てますがこれがポン・ジュノのカラーでしょうか。大変面白かったですが他人の生活に寄生するという題材だけに、観ていて非常に居心地が悪いというか、常に罪悪感を刺激され続ける感じで落ち着かなかったですね。

 

 

エクソシスト2』(1977)監督:ジョン・ブアマン

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20年ぶり3回目くらい。ショック描写を売り物にしていた前作とは違い、善と悪、神と悪魔の対立を描いた映画なのでどぎついシーンはほとんどなく、観念的な描写が続くのでパッと観はおそろしく地味です。劇中しばしば出てくる催眠シーンはまったりしたテンポとダウナーな音響も相まってつい観客をも催眠。しかし実質的な主人公であるラモント神父(なんとリチャード・バートン!)の信仰心への試練、という物語の構造が判ると話の通りが良くなり、観念的な描写も説得力を持ち始めます。一部に熱狂的なファンを持つカルト映画で、地味ながらも忘れがたい一本。前作からいろいろ育ったリンダ・ブレアはその後伸び悩んでしまいますが、本作での表情の豊かさや物怖じしない感じは、うまくすればまた別のキャリアも有り得たのでは、と思わせます。あとモリコーネの音楽が最高!

 

モリコーネプログレというなさそうであった組み合わせ

 

 

『突破口!』(1973)監督:ドン・シーゲル

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初見。ドン・シーゲルウォルター・マッソーを主役に迎えて撮った犯罪映画。田舎の銀行を襲ってちょいと金儲けするつもりが、うっかりマフィアの裏金も盗んじゃったので警察とマフィアの両方から追われるハメになった中年男。しかしこのピンチを知略と老獪さで切り抜けていく脚本が巧みで最後まで飽きさせません。マフィアが放った追手がサイコパスっぽい暴力大好きマンなのはちょっと『ノーカントリー』みたいでしたね。あとドン・シーゲルはアンディ・ロビンソン(『ダーティハリー』の「さそり」)を今回も律儀に起用してて偉いなと思いましたが、今回も強面の人にボコにされヒイヒイ言わされたうえに死体のままラストシーンで放置されてたのであんまりだと思いました。

 

 

『呪詛』(2022)監督:ケビン・コー



初見。全編ほぼ録画映像を貫き通した台湾ホラー。明らかに『リング』の影響下にあるストーリーながらそれを越えてくる邪悪さでした。これぞSNSYouTubeが浸透した現代ならではの怖さと言えましょう。ただホラー描写としてはグロ残虐の他にある種の生理的な嫌悪感を刺激するように作られており、怖いというよりは気色が悪いと言ったほうが近いかも。また日本のホラーや心霊ビデオに多大な影響を受けている映画で、山奥の村や土着の信仰、といったおなじみの描写がありますが、日本のそれと非常に似ていながら明らかな文化や生活感の違いが出ているので、そのズレの部分が我々日本の観客からすると新鮮です。あと突撃系YouTuberが出てきますが、無神経で不愉快なやつらが閲覧数稼ぎのためにこわーいところに自ら接近して案の定ひどい目にあう、という展開があり、観ていて心が傷まない被害者としてああいう連中はホラー映画的に便利だと思いました。

 

 

『コカイン・ベア』(2023)監督:エリザベス・バンクス

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絶賛公開中。マフィアが森に落とした大量のコカインを野生の熊ちゃんがモリモリ食べちゃってガンギマリ状態で人間を襲う!という徹マンしながら企画会議したみたいな内容を律儀に映画化した由緒ただしきバカ映画です(褒めてる)タランティーノみたいなオフビートな笑いやブラックな笑いがはしばしに差し込んであり、登場人物がどうでもいい会話をダラダラしているあたりもタラっぽいですが、ここは往年のパニック映画にありがちな「どうでもいい人間ドラマでの尺の水増し」が2023年の現在にも!というところに感動しておきましょう。そういう展開が多いので意外とコカイン・ベアちゃんの出番は少なく、熊さんが怪獣みたいにぶんぶん大暴れするのを期待される向きにはご不満かも。ただし手足が飛んだり血しぶきがブッシャーだったりとゴア描写はかなり激しめ。あとコカインの売人の元締めとしてレイ・リオッタが出ており、『グッドフェローズ』を思い出してニヤニヤしたり、最後は『ハンニバル』のアレの活造りを彷彿とさせるシーンでブフフとなったりするので必見です。なお、彼の遺作でした。

 

 

 

『返校 言葉が消えた日』(2019)監督:ジョン・スー

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初見。なんと同名ゲームの映画化。戒厳令下で全体主義に市民が怯えながら暮らしていた時代を舞台にした台湾ホラー。ホラー描写は方便というか、この映画の間口を広げるための看板で、実際は全体主義の恐怖と自由のかけがえのなさをホラー描写に仮託して描いた映画でした。怖い映画なんですがそれはホラー的な文脈ではなく、全体主義のもとで自由を奪われて生きること、国家が国民を殺すことの怖さなので、必然的に重いテーマが浮かび上がってきます。キャッキャしながらお化け屋敷に入ってみたら中に鬼教官がいて正座させられ理不尽に殴られるような映画でした。物語の構造も秀逸で、悪夢の只中に放り込まれた主人公二人が、廃校のなかを巡っていくうちに過去の自分の所業を次第に思い出していく過程にミステリー味があり魅せます。ラストは民主化した現代の台湾で、その後の主人公たちがどのように過去の呪縛を解くかを見せ、人間の善性と自由の尊さを描き出して感動的でした。おれ、ホラー観てたはずなのになんで泣かされてるんだ…。同時に、過去の全体主義への批判が現在台湾が置かれている状況をも指し示していて、大変すぐれた映画だと思いました。ただゲームが原作だけあって、突然バイオハザードみたいなクリーチャーが出てくるあたりはご愛嬌。