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ついに完結か!?傑作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)

ジョン・ウィック:コンセクエンス サウンドトラック【世界先行発売】

 

監督:チャド・スタエルスキ。出演:キアヌ・リーヴスドニー・イェン。前作からもう4年か。どんな話だったか記憶が曖昧です。年かな。えーと殺し屋組合のトップ会議「ハイテーブル」にハメられ、コンチネンタル(殺し屋御用達ホテル)の支配人からまさかの銃弾をうけて屋上から転落したジョン・ウィックさん(職業:殺し屋)ですが、生身でありながらターミネーター並みの生命力のためちょっと骨折れたくらいで済んでたところを地下組織の王キング(ローレンス・フィッシュバーン)に助けられ、あいつらめええええ、とハイテーブルへの逆襲を決意、というのが前作までのお話。例によって映画の冒頭に「これまでのジョン・ウィック」みたいなあらすじ映像が流れるので始めての方も安心です。

 

 

 

 

キングの庇護下で回復したジョンは表立ってハイテーブルへの逆襲を開始します。ハイテーブルの方は最近台頭してきたボンボン侯爵のグラモンちゃん(ビル・スカルスガルド)が実権を握っており、彼の差金で殺し屋ケイン(ドニー・イェン)が派遣されます。彼は盲目ながらジョンに匹敵する凄腕の殺し屋らしく、しかもジョンとは旧知の仲なのですが、すでに殺し屋稼業から足を洗っていました。しかしグラモンちゃんに娘を人質に取られ半ば強制的に職場復帰です。う〜んブラック。

 

 

 

追われるジョンは旧友を頼ってコンチネンタル大阪支店(あるんだ)にやってきました。ここの支配人コウジ(真田広之)とは昵懇の間柄ですが、あんたが来たら大阪コンチネンタルは血の海になってまうやろ!と娘でホテルのコンシェルジュでもあるアキラ(リナ・サワヤマ)は怒り心頭です。しかしここにもハイテーブルの手が伸び、軍隊かな?という量の武装集団が送り込まれて大阪コンチネンタルは銃弾の雨あられに包まれるのでした。

 

 

コウジの援護で梅田駅から逃げ延びたジョン。よく迷わなかったな。彼はコンチネンタル支配人の協力を得て、グラモンちゃん相手にハイテーブルのしきたり「一対一の決闘」による決着を望みます。しかしグラモンちゃんが自分の代理に指名したのはケイン。かくて映画4本分にわたる壮絶な抗争は旧友同士の夜明けの決闘に収斂していくのでした……。

 

 

 

 

……というあらすじですがこれでもだいぶ端折ってて、これに真田広之VSドニー・イェン、父を気遣うリナ・サワヤマ、ジョンをつけ狙う名無しの賞金稼ぎと相棒のワンコ、決闘の資格を得るためのミッション、決闘の場所にたどり着くまでに大量に襲いかかってくるアマの殺し屋の皆様などのエピソードを絡めてテンコ盛りでお送りする169分。一作目の倍近い尺ですぜ。これはもう尻の肉か膀胱のどっちかが先にギブなのでは、と思い私も身構えて鑑賞に望みました。

 

 

しかし長さは全然気にならなかったですね。この手のアクション映画としてはある種の極北に達してしまった傑作です。痛くて重くて無茶苦茶なアクションがギチギチに詰まった破格の169分。特に今回ドニー・イェンの参加が大きい。このシリーズのアクションは、テクニカルだけど無骨、という重心重めのリアリティでしたが、ドニー・イェンのキレキレの身のこなし、華麗なアクションで、もったり甘いお菓子を食べながら飲むブラックコーヒーというか、極厚ポンドステーキを食べながら飲むジントニックというか、重いアクションのなかに光るキレとコクという感じで要所要所をキリリと締める所作がすばらしい。この味変のおかげで169分という長尺が飽きずに観られます。

 

 

特筆すべきは、ある屋内シーンでカメラが俯瞰のまま移動しながら部屋から部屋への連続アクションをワンカットの長回しで撮っているくだり。途切れなく続くアクションをたるみ無く延々と繰り広げる様はまるでサーカスのようでしたね。このシーン、ドラゴンブレスだか何とかいう、食らった人が強火の線香花火みたいに燃えちゃう重火器をバンバン打ちまくってて見た目にも派手な上に、壁や家具への弾着も容赦なく、ゾンビの如く襲いかかってくる殺し屋は数知れず、おまけに犬までアクションにご参加なさってますから一体これどうやって撮ったんだとつい人類の可能性について思いを馳せてしまう。これ、惜しいことにストーリーの関係上途中で一度カットを割ってるんですが、もしワンカットで終始してたらアクション映画史に残る名場面になったかもしれません。

 

 

その他、真田広之VSドニー・イェンという夢のカードに往年のファンは目頭を熱くするもよし。なお大阪パートでは、背後に「初志貫徹」「牧野」といった不審な巨大ネオンが光る大阪の街をバックにサントリーの山崎で乾杯するジョンとアキラ、壁に相撲の番付が貼ってあり関取が常駐しているホテルの厨房、のれんに書かれている「命は食にあり」の謎標語、日本刀や弓矢、手裏剣を駆使するもんもんを背負った殺し屋の皆様、練習場でむやみに和太鼓をドコドコ鳴らす謎の盛り上げ係など、じわじわくる日本描写にほっこりしますが、しかしこの映画自体がそもそも非現実の平行世界を舞台にしてるとも言えるので、意外にマッチしており鑑賞のノイズにはなりません。

 

 

あとはパリパートでの交通事故上等アクションで跳ねられた人がくるくる回って飛ぶシーンや、222段の階段を上がっては転げ落ち上がってはまろび落ちの連続蒲田行進曲といった、やりすぎにやりすぎを重ねた激しいアクションから、最後の一対一の決闘の静かな緊張感へと至るコントラストがまたいい。この決闘シーンや、パリの夜の町並み、聖堂の内部や寺院といった背景と画面構成の美しさにも要注目です。

 

 

前作でちょっと気になっていた、あまりにアクションが激しすぎて「一体何のために戦っているのか分からなくなってくる」という点ですが、今回そこは「この抗争を終わらせるため」という動機づけがしっかりなされているので、観ているほうも迷わず「やっちまえ〜」とノリノリで観られます。ボンボン侯爵のグラモンちゃんがまた上手く、この映画のヘイトポイントを一身に集めてゆく憎たらしさで、ああ、最後はこいつをシメたったらええんやな、とつい関西弁で思ってしまう作劇誘導の上手さです。

 

 

ラストはここでは語りませんが、長らくシリーズを追いかけてきたものとしては、フルコースの最後に出てきた超重量級のゴチソウにもう満足するほかはなく、満腹の腹を抱えて深い充実感につつまれるのでした。

 

 

しかしこれ、本当に終わったの?完結なの?そのあたりがちょっと曖昧といえば曖昧なラストカットではあります。あとスピンオフ映画『バレリーナ』も制作進行中ということで、なんと主演はアナ・デ・アルマスといううっひゃー案件。こっちにも期待しましょう。