カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近観た映画のメモ(2023年12月 その2)

子供が冬休みに入ったので好き放題映画を見るチャンスが減少。テレビの奪い合い〜。

 

 

 

『キャッチ22』(1970)監督:マイク・ニコルズ(12/13)

 

キャッチ22 [DVD]

 

第二次大戦末期のイタリア戦線。駐留するアメリカ空軍の基地にはびこる不条理と腐敗と混沌をブラックな笑いに包んでお送りしやがる怪作。タイトルの「キャッチ22」とは、矛盾と不条理の塊のような裏軍規を指す符丁です。例えば「頭がイカれたので退役する者はその旨自分で申告せよ。ただし自分で申告できる者は正常とみなすので退役不可な」みたいなどないせっちゅうねんルール。その軍隊内ではおまえ名字が「メイジャー」だから明日から少佐(メイジャー)な!といった冗談としか思えない命令がまかり通っています。こういった戦場の不条理とナンセンスを戯画化したコメディですが、それが次第に度を越して狂気の域に達したあたりから映画は本格的に怖くなり笑えなくなってきます。もちろんこれはある種の寓話なので誇張して描かれてはいますが、その根底に潜む狂気や虚しさの核は現実の戦争にも深く根ざしているものでしょう。

 

ブラックとは言えコメディですから描写は軽妙、と思いきや、ギャグシーンで平気で戦闘機をぶっ壊したりどっかんどっかん火柱が上がったり爆撃機(本物)が束になって出撃したりとスケールがやたらデカいため醸し出される狂気度は高スコアをマーク。そこから次第に笑いが消えていき狂気のみが残っていく過程が非常に怖いですね。あとアラン・アーキンジョン・ヴォイトアート・ガーファンクルマーティン・シーンアンソニー・パーキンス錚々たる顔ぶれの皆様がまあお若い!

 

 

 

『眼下の敵』(1957)監督:ディック・パウエル(12/20)

 

眼下の敵 [Blu-ray]

 

第二次大戦の大西洋上。アメリカの駆逐艦とドイツのUボートが、お互いの手の内を読み合いながら丁々発止の戦いを繰り広げる戦争映画。潜水艦映画の古典であり、駆逐艦の艦長ロバート・ミッチャムと、Uボートの艦長クルト・ユルゲンスが相手の心理を読みながら裏をかこうと繰り広げる頭脳戦が熱い。Uボートが大音量でレコードをかけて駆逐艦を挑発するあたりは「沈黙の艦隊」もオマージュしてましたね。圧潰ギリギリまで潜航して耐えるUボート、きしむ船体、乗組員にかかる心理的不安、などなどのちの潜水艦映画のクリシェとなるシーンがてんこ盛りで、後世にあたえた影響は大きいとみた。

 

最後は駆逐艦Uボートも大破するのですが、そこで米兵がごく自然にドイツ兵を救助するシーンがあり、さらに艦長同士の間にもライバル意識から昇華された互いへの敬意が生まれる描写もあり、任務を離れれば米軍も独軍も良心ある普通の人である、ということが示されていて、そういう良心的な人々に戦争行為を強いることへの不条理さがほんのり書き込まれています。なので戦争を美化した娯楽に堕さないギリギリのところで踏みとどまっているのがよい。

 

潜水艦や海中の爆発は特撮で描かれてますが、駆逐艦がドッカンドッカン爆雷を投下する場面は海軍が協力して撮った本物らしく、ここはCGなどとても及ばない迫力があります。主演の二人がよく、ロバート・ミッチャムが一見昼行灯っぽいけど実は有能な新任艦長、クルト・ユルゲンスが現場叩き上げで実はナチ嫌いのベテラン艦長、という対象的な二人を好演。いずれも戦争に対して懐疑的ながら、任務には忠実。しかし極限状態では任務よりも人倫を優先する人物である、というところがこの映画の後味を良いものにしています。