カジノロワイヤルの手帖

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人間の暗黒面大図鑑『ミスティック・リバー』

ミスティック・リバー [DVD]
監督:クリント・イーストウッド出演:ショーン・ペンティム・ロビンスケヴィン・ベーコン。この三人は幼馴染みという設定ですが、こんな濃い幼馴染みはいやだ。馴染みたくない。そ、それはともかく、少年時代のティム君が、他の二人が見ている前でコワイおじさんにさらわれます。4日間監禁され性的虐待を繰り返し受けたティム君は命からがら逃げ出して保護されますが、それを機に三人の仲は疎遠になってしまいます。そして約30年後。それぞれの人生を生きてきた三人は、ショーン・ペンの娘が殺される、という痛ましい事件をキッカケに、刑事として、容疑者として、そして被害者の父として、再び対峙しあうのであった…というお話。


もうね…この映画に出てくる人間がどいつもこいつもフォースの暗黒面に堕ちたような人たちばっかりでね…そして事件の陰惨さも相まって、見ず知らずの他人の葬式に叩き込まれたような気詰まり感に満ちあふれています。そして開巻からエンドマークが出るまで持続するただ事ではない緊迫感。ケヴィン・ベーコンの刑事が少しずつ捜査を進め、次第に事件の核心に近づいてゆくサスペンスとミステリアスな興味。事件の当夜、血まみれで帰ってきたティム・ロビンスは果たして犯人なのか?という疑惑。そのティム・ロビンスが過去のトラウマに苛まれて不可解な言動を繰り返すニューロティックな恐怖。チンピラ稼業から足を洗って堅気になり、良き父親となっていたショーン・ペンが、娘を殺された怒りと悲しみから堅気じゃない方に戻ってゆく痛ましさと恐ろしさ。唯一冷静と思われるケヴィン・ベーコンの刑事すら、別居中の妻から無言電話攻撃に遭って神経をすり減らしているという…もう出てくる人出てくる人が生きているだけで辛い状態に叩き込まれており、その様子をじわじわと覆いを取り払うように小出しに見せてゆく演出はまるで針のムシロのようです。イーストウッドこええ。


物語は意外な真相と意外でない展開の二つに分岐しますが、両方をカットバックで見せられる観客の「やーめーてー!」度は横山弁護士のそれを遥かに凌駕し、運命の冷酷さと人間の愚かしさを刮目して観よ!と迫ってくるイーストウッドの演出力には全身の毛穴が開く思いです。そして結末。登場人物たちのそれぞれの未来を暗示するシークエンスで映画は幕を閉じます。この結末に至っても観客は針のムシロから降ろしてもらえないまま映画終了。観終わったあとも残る針の痛み。というか針、刺さったまま抜けない。こうやってこの映画について語り、ディティールを自分なりに噛み砕いて理解する事が、刺さった針を抜く事になる、という思いでこれを書いておりますが、そこまでさせられる映画というのはなかなか無いです。近作『チェンジリング』では、同じく救いのない結末ながら、イーストウッドは最後にきちんと観客の心から針を抜いてくれたのとはまるで正反対です。


とりあえず手っ取り早い針の抜き方として「人間の心は煮詰めるとなんでこうもどす黒いのか」「追いつめられた人間の心はエゴの塊になる」「人間の罪は一生消える事は無く、傷つけられた者の傷も一生消える事はない。それは生乾きのコンクリートに刻まれた落書きのように」というのが今思いついた針抜きの呪文ですが、それでもまだ無数の小針が刺さりっぱなしで、イーストウッドめ、なんて映画を…と戦慄する他は無い映画です。あとティム・ロビンスの顔色の悪さは必見。アカデミー賞もの。と思ったらホントに穫ってた(助演男優賞)。ちなみにショーン・ペン主演男優賞を穫ってました。が、この映画においてはティム・ロビンスの何考えてるか判らない挙動不審な演技が圧倒的でした。