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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

天才の痛み『プリンス/パープル・レイン』

プリンス/パープル・レイン [DVD]
監督:アルバート・マグノーリ、主演:プリンス。ご存知プリンスちゃんの大ブレイク作。ミネアポリスのライブハウスで夜な夜な激しいギグをキメるキッドことプリンスちゃんのバンド「レヴォリューション」。バンドの人間関係もいい感じにギスギスしています。そこへ田舎からスターを夢見てやってきた娘っ子ことアポロニアちゃん。「フッ…」ニヒルに笑うプリンスですが心はアポロニアちゃんにトキメキ★ハートビート。プリンスはアポロニアとバイクでデートをキメて親密の度を高めますが、そこは好事魔多し。ライバルバンド「ザ・タイム」のボーカル担当モーリスもスケベメーターをMAXに充填、金と権力をフルに活用してアポロニアを口説きにかかるので話は三角関係痴情のもつれです。プリンス危うし!


えー、「天才は痛ましいものだ」なんてことを申しますが、これ誰の言葉だったっけ。忘れた。まあ世の天才と呼ばれる方々は類まれなる才能を神から授かった代償として他の何かが欠落していることがままあり、才能、容姿、健康、人徳、財産、その全てにおいてパーフェクトな天才というのは古今あまり例がありません。天才と言われる人々を顧みても、マイケル・ジャクソンは私生活に恵まれず、スライ・ストーンはドラッグで潰れ、スティービー・ワンダーは盲目で、ジェームズ・ブラウンはムショに出入り、オーティスやジミヘンは若死にし…と枚挙に暇なし。天才を理解するときは、才能の恵まれた部分ではなく、欠落している部分を見よ。そこに天才の本質が表れる。と言ったのは誰だったか。忘れた。まあそういう視点でプリンスという一人の天才を見たとき、そこに何が欠落しているのか。…それが、まあ、その、なんだ、つまり「身長」なんですね。


ウィキペディアに身長を正直に記述すると速攻で削除されるというアーティスト(156cm)がおりますが、プリンスもまあそのくらいの身長なのではと言われています。日本基準でもこの身長は小柄な部類に入りますからアメリカにおいては何をかいわんや。この体格があらゆる面において苦労の種になるであろうことは容易に想像が…。というわけで、作り手が如何にしてプリンスの身長をカバーしているかという点に注目すると味わいが一層深くなってくるという二段熟カレーもかくやの映画です。常にたっかいヒールの靴を着用。極端な身長差が発生しないようキャスティングには慎重な配慮が。やむなく他の役者と同一のフレームに入る場合は、全員椅子に座らせたりなぜかプリンスだけバイクに乗ったりしているなど、立ち状態での全身がフレームに入らない入念な画面設計。そのバイクも、前から見ると一見ハーレーダビッドソンのようなごっついマシンに見えますが、よく見ると250ccくらいの軽量バイクを改造した奇怪なシロモノ。唯一ごまかしの利かないステージでのパフォーマンス時は、そもそもバンドのメンバーに高身長者がいないような…。


もう涙ぐましいのひとこと。この点を念頭に置いてこの映画を見るとき、プリンスという天才の源動力となっているのは、この低身長を源とする劣等感と、それに基づく「皆に認められたい」という願望なのでは、とも思えます。映画の内容にも流れる曲の数々にも、他者に理解してもらいたい、一緒にいて欲しい、見捨てないで欲しい、という通奏低音が流れており、単なるアイドル映画に終わらない身を切るような痛みが伴います。


この映画、先ほど書いたようなあらすじだけを追うと苦ーく半笑いになる内容に思えてしまうんですが、実際の映画が必ずしもそうなっていないのは、こうした痛みのほかに、プリンスの家庭環境が恵まれなかった点、特に両親の不和を目の当たりにしながら育ってきたということを直球で描いている点で、このあたり、友達の家で夫婦喧嘩の現場に居合わせたようないたたまれなさが充満してますが、映画としては思いのほか豊かです。


そういったセキ&ララな自虐を盛り込みつつ、それを自らの才能で乗り越えて、最後の"Purple Rain"の絶唱に至るわけで、これを踏まえて聴くとこれがたいそう泣ける。劇中のみなさまも涙ぐんでおられる。この映画はこの曲で泣かせるための長尺PVだったと言っても過言ではない。そして"Purple Rain"が終わったあと、再びステージに戻ったプリンスが大ハジケで歌う"I Would Die 4 U"と"Baby, I'm A Star"の2曲は、若い頃のプリンスの最高のステージ・パフォーマンスが記録されていて、曲の内容も相まって大シビレ!悶絶!痙攣!…正直この映画ナメてました。ちょうカッコいい!身長が低いという不利を圧倒的な才能でねじ伏せています。スゲーよプリンスちゃん!「パープル・レイン」のアルバムは10代の頃からの愛聴盤でしたが、この映画を見ずに曲だけ聴いていたというのは何というかつけつゆ無しで素麺をすするような愚かな行為でした。プリンスのファンは超必見!の重要な映画です。


パープル・レイン

パープル・レイン