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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

凄いのかショボイのか『拳精』

拳精 デジタル・リマスター版 [DVD]
監督:ロー・ウェイ。主演:ジャッキー・チェン。どこかの少林寺風味の寺から門外不出の殺人拳「七邪拳」の奥義書が盗まれてしまいます。それを会得したものが現れれば、死人がズビズバ出るのは必定の取扱注意物件。この七邪拳に唯一対抗できるのは「五行拳」だけですが、これはすでに数百年前に失われており弱った弱った!とか言ってたらホントに七邪拳を会得してしまったKY野郎が出現。あちこちの武芸家のところに押しかけてはこれを倒しまくってワッハッハです。一方突然少林寺の境内に突然落ちてきた謎の彗星。そこから出現したのはなんと五行拳の精霊!かくて少林寺の寺男であるところのジャッキー・チェンは成り行きで精霊の弟子となり、身につけた五行拳で七邪拳の使い手を迎え撃つのでした。


…と、あらすじに書いてしまうとそれなりにマトモな感じがしますが、実物は極めてテイキットイージーな作りになっており、観ている間じゅう魂を吸い取られる思いでした。この当時の香港クンフー映画独特の泥臭さが高濃度で炸裂しており、極めてコクの深いコテコテ感につつまれるほか、ストーリーにおける「ヤッツケ」を縦横無尽に駆使した作劇にはある種の居直りすら感じられ、香港映画の業の深さを存分に堪能できます。特にストーリー展開におけるヤル気の無さは特筆もので、七邪拳の使い手が「五行拳は数百年前に失われている!復活する気づかいはない…天から降ってでもこない限りはな」とニヒルに言い放った次のカットで本当に天から流れ星状のモノが降ってくるという、ここまでのものにはそうそう出会えない高レベルのヤッツケが炸裂しており、観る者の肝を冷やします。そしてストーリーは後半、ヒロインの父を殺した犯人は誰かという犯人探しのミステリー風味に突入。観客に物語への没入を許さない超展開ですが、正直この展開に入ってから話がちょっとマシになるので痛し痒しです。



そしてこの映画の最大のポイント、五行拳の精霊ですが…。すげえ…。白塗りの顔に白の全身タイツ、ショッキングピンクの髪にビニールの腰ミノという、これが70年代の香港映画であるという前提を考慮してもちょっとそれはどうかと思ういでたちで、この山海塾みたいなのが出てきた瞬間映画のコテコテ感が一挙に混迷の度を増します。こんなのがアナログシンセで作ったスペーシーな効果音と共に5体出てくるもんですからこのころの香港映画は魔界です。この精霊たちが五行拳をジャッキーに教えるのですが、さすがのジャッキーもこんなのと延々修行するのは嫌だったのか修行シーンは申し訳程度の長さで、通しで観るとダメ青年だったジャッキーが短期間でまったくカ・ン・タ・ンに強くなってしまうというブルワーカーの広告みたいな状態になってました。


しかし殺陣はさすがに香港映画のお家芸。精霊のアクションはガラスの反射を駆使した合成というミシェル・ゴンドリーのようなローテクですが、動きが複雑なので相当高度な振り付けを行っていることが判り、ショボいのか凄いのか観るものの価値観を上下に揺さぶってきます。また格闘シーンも、五行拳だけあって鶴の構えや蛇の構えなどの型を存分に堪能でき、流れるような殺陣をじっくり楽しめます。途中、ジャッキーに課せられる少林寺の試練、十八羅漢との戦いも、棍やトンファーを駆使したトリッキーな殺陣でさすがです。おなじみの「ボッ、ボッボッ、ボボボッ」というマイクを吹いたような効果音も健在。


とはいえジャッキー初期のフィルモグラフィーにおいてはかなり脂汗の垂れる仕上がりであり、特に精霊のルックスには頭を抱えますが、そういうカオスも含めてクンフー映画ですのでまあそういうものだと諦めてください。あと日本公開時に配給会社が勝手に付けていた主題歌っていま手に入らないのかな。ナニゲにテクノポップ風味で好きだったんだがなあ…。と思って探したらYouTubeに上がってましたよ。これはいい主題歌だ。映画の雰囲気をよくつかんで盛り上げてます。この手の後付主題歌には珍しい成功例です。