監督:深作欣二。出演:萬屋錦之介、千葉真一。徳川二代将軍秀忠が食あたりでぽっくり急逝。しかしあまりにぽっくりなため次期将軍の指名がまだなのでした。長男の家光(松方弘樹)は生まれついての痣と吃音のために人気も人望もなし。反して次男の忠長(西郷輝彦)は容姿端麗で器も大きく人望バチシ。実は秀忠の死は跡目争いに焦った家光派が先走った結果の毒殺だったのです。家光の剣の指南役であった柳生但馬守宗矩(萬屋錦之介)は彼らの陰謀にぬるっと加担。家光を将軍にし、自らは将軍の剣術指南役に収まって柳生家の安泰を得ようと暗躍を始めるのでした。
ヨロキンの台詞回しに注目
衝撃的な結末と、流行語にもなった「夢でござる〜ッ!」のセリフであまりにも有名なこの映画。そのためオチを知ってから観てしまったのですがそれでも十分過ぎるほど面白かったですねえ。もう出てくる役者が揃いも揃って濃い。主演の萬屋錦之介と千葉真一のあまりにも濃すぎる親子役をはじめ、松方弘樹、高橋悦史、室田日出男、夏八木勲、芦田伸介、山田五十鈴、原田芳雄、大原麗子、金子信雄、梅津栄、成田三樹夫、トドメに三船敏郎、丹波哲郎という二日目の鍋のような濃さ。なんですかこのミルフィーユみたいな層の厚さは。マニアックな焼肉屋のメニューの如きこの面々のぶつかり合いをみているだけでもう眼福という、あまりにも高役者力を誇る映画です。
この眼光!
どの顔を取っても濃すぎる目張りとメイクのせいで目つきがギラギラしておりカロリー高いのですが、そんななか際立っているのはJACの面々を引き連れて右にジャンプ左にズバと立ち回る千葉真一の柳生十兵衛と、白塗り・ポチ眉・おじゃる言葉の嫌味な公家のくせに実は剣豪という狂った設定がサイコーな成田三樹夫。とくに白塗りでまろまろ言いながら太刀をぶん回す三樹夫のインパクトは絶大で、従来の「公家=戦闘力ゼロ」という先入観をぶち壊してくるこのキャラの立ち具合。しれっと「隠れても獣は臭いでわかりまするぞ」などとイカす台詞を吐いて強烈な印象を残します。
もう最高
こういうとき不利になりがちなのは初々しい若手ですが、柳生十兵衛の妹役の志穂美悦子はいつもどおりの可愛さにアクションのキレですし、まだ十代の真田広之はりゅうちぇるのような赤いほっぺから溢れ出すフレッシュ感でこれはこれで。マニアックなところではモブの中に若い頃の小林稔侍が混じっているのですが頭半分が傷でハゲている上に時折そのヅラが取れかかっていてガンバレ稔侍です。
ういういC
(以下ちょっとネタバレ)あとはなんと言っても萬屋錦之介(以下ヨロキン)の力み返りっぷりで、周囲との芝居の調子が全くかみ合ってないにもかかわらず重厚な歌舞伎調を貫き通す姿は別の意味でスリリング。しかしそのような暴走芝居もヨロキン自身の重厚なたたずまいと目張りで出力アップした眼力で説得力を失っておりません。ラストシーンの「夢でござる〜ッ!」を見るにつけ、ああ、これまでの芝居がかった台詞回しは全部このシーンへの布石だったのだな、ということが判るとなお味わい深い。ここのヨロキンはもはや伝説の域でしょう。よく見るとあれだけのたっぷりとした演技をしながらも目の焦点をずらせての錯乱顔。それまでの岩のような威厳を自らガラガラと突き崩す壊れっぷりで、生首を抱きしめて絶叫という絵面のインパクトもあり、そのギャップに観客も呆然という凄いシーンでした。
メイク濃いめのヨロキン
必ずしも役者の演技とは自然であるべきではなく、ときに暴走をしてまでも迫力や存在感で観客をねじ伏せに行くこともあると。我々観客も普段は青汁とか飲みつつたまには脂びっしりのラーメンを食べたくなることもあるわけで、そういう特濃の役者力を堪能したい方にはまさにうってつけの一本。いやーすごいもん観たね。