カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

アシッドな魅力「江戸川乱歩の美女シリーズ」

監督:井上梅次。主演:天知茂。70年代から80年代にかけて制作されたこのTVシリーズを、なぜか2010年代の今になってアシッドな感じで観まくっているオイラですがみなさまいかがお過ごしでしょうか。原作者、キャスト、監督が同一のため、どの話を見ても独特の雰囲気に統一されており、立て続けに何本か観てると何がどの話だったかが朦朧としてくるのでここにメモ。

  • 『赤いさそりの美女』

美女:宇津宮雅代。原作:「妖虫」。新作映画の主演女優候補者が次々と狙われます。全裸の美女の胸にナイフを突き立てたり、死体に花嫁衣裳を着せてショウウィンドウに飾ったり、うじゃらうじゃらと気色の悪い虫が大量に出てきたりと猟奇度は高ポイントをマーク。死体を真っ二つにして、風呂屋の煙突から下半身が、かまどから上半身が飛び出している現場など、やり過ぎ感あふれる見せ場がたっぷりです。犯人は明智に匹敵する変装の名人であり、あろうことか明智本人にも化けたりするもんですから「猟奇殺人者の眼つきをした明智」というにせウルトラマンもかくやの不審映像も見られます。ラストに美女役の宇津宮雅代が見せるキレキレの演技も必見。最後には明智の助手である文代(五十嵐めぐみ)が、自滅する犯人を見て「かわいそう」的な誠意のないまとめをつぶやきエンドクレジットに突入、という投げっぱなし感がまた味わい深いです。小林少年(柏原貴)の居ても居なくても差し支えない存在感も要チェック。

  • 『エマニエルの美女』

エマニエルの美女 江戸川乱歩の「化人幻戯」 [DVD]

エマニエルの美女 江戸川乱歩の「化人幻戯」 [DVD]

美女:夏樹陽子。原作:「化人幻戯」。この身も蓋もないタイトルは何ぞ!と思ったら脚本がジェームズ三木でした。推理作家の大家が催す犯罪研究の会に招待された明智と浪越警部(荒井注)。そのメンバーが次々と惨殺されます。推理作家の代筆疑惑という乱歩自身を連想してしまってやや気まずい題材と、その妻(夏樹陽子)をめぐる爛れまくった男女関係。この回は普段にも増してエロ度にターボがかかっており、中盤以降は妻の不倫懺悔独白という展開もあってあちらでウフンこちらでアハンと画面は水浸しです。あんたテレビでこんなんやっちゃっていいのか、と思うほどに濃厚なエロシーンの連発。タイトルの「エマニエル」とはこの妻の身持ちの悪さとエロさを表してのことかと思いますが、それにしたってそのセンスはどうかと。ちゃんと例の籐椅子が出てきているのは後ろめたくなったスタッフが気を利かせたのか。まああの当時のテレビ媒体ならタイトルに「エマニエル」と出てきただけで何かしらの期待を抱いてしまうのが当時の男のただしい反応ですので、視聴率アップには貢献しているかも知れません。最後は美女の夏樹陽子が大嫌いなカマキリの群れに襲われて発狂。ウフウフウフフと笑いながら手作り感あふれるカマキリのプロップを全身にまぶす、という女優根性を試されるシーンで、それを見て助手の文代が「哀れだわ…」と微妙なパーマの髪型でヤル気のないまとめを発言しエンドクレジットに突入、という流れはさすがです。小林少年は「いないよりはマシ」くらいの貢献度です。

  • 『白い乳房の美女』

美女:片桐夕子。原作「地獄の道化師」。やはり身も蓋もないタイトルで、これはもはやスケベな男を釣り上げる釣り針そのものでしょう。事件の中心にいる女の乳房には大きなホクロがあり、コレが事件の鍵となるのですが、このホクロの付け方がテキトーなので入浴シーンで剥がれそうになっており乳房よりもそちらのほうが気になります。この乳房については質量ともに申し分ないのですが、肝心の本体が美女と呼ぶには微妙な顔面でつらい。とはいえ話の性質上この人は「地味」「暗い」「魅力に乏しい」「モテない」「幸薄い」という役柄なのでキャスティング及び演技プランとしては大正解なのですが、美女と言い張ってタイトルロールにしてしまうのはどうなのか。釣り針としては高性能ですが釣られた男の心境は複雑です。美女役としてはもう一人、岡田奈々が出てきますがこちらは脱ぐどころか入浴シーンなども一切なし。けしからん。また容疑者の一人として蟹江敬三が登場し、中だるみしがちな中盤の展開を独特の怪演で妙なテンションに叩き込むのでさすがの天知茂も困り顔です。最後、追いつめられた犯人は動機をせつせつと告白したあげく自害して果て、気まずそうに現場から撤収する明智とその助手たち。車に乗り込んで助手の文代が「犯人の気持ち、判るわ…」と適当なまとめを口走ってエンドクレジット突入、という流れはかたくなに守られておりますが、そこまでして守る必要がなぜあるのか。小林少年は今回全く活躍の場がなく「ああ、いたのか」程度のおぼつかない存在感で給料の査定に響くレベルでした。



『さそり』は見所が多く力作の部類。『エマニエル』はエロスが全編に炸裂する異色作ですがこれも見所多し。『白い乳房』は若干弱いですが蟹江敬三に救われた感あり。しかし3本とも見事なまでの見世物主義に徹しており、独特のチープさも相まって他に比べるものがないオリジナルな世界が作られております。癖になるなこれは…。CSでの放送はまだまだ続きそうなので引き続きワッチンする所存です。

スーパーマリオ3Dランド

スーパーマリオ3Dランド
安心の任天堂クオリティ。磨きこまれた丁寧な作りに、はしばしに織り込まれた遊び心。ソーシャルゲーが盛況の昨今、こういうゲームらしいゲームに触れるとホンマにホッとします。キモの3D映像ですが、最初は3Dボリュームを最大にして立体感を存分に楽しんでいたところ、ものの30分もしないうちに凄まじい眼精疲労に襲われしんしんと痛む目の奥の奥。そして凝りまくる肩。「所詮自分はニュータイプになれない男か…」などとやさぐれておりましたが、3Dボリュームを半分にして続けてみたら慣れてきたのかそれほど疲れは感じなくなりました。ゲーム中は至るところに3Dならではの演出が差し挟まれており、目がくらむような高所から下を覗き込んでダイブするというキャンの玉がキュンとするようなシーンや、遠くからズオオオと迫ってくる火球など、オオッと思うシーンも満載。ゲーム性の観点から、真剣に3D映像と切り結んで作っている感じがヒシヒシとします。


3Dになった分、ジャンプ後の着地点の見切りなどがかなり難しく、目標地点の斜め向こうにジャンプの姿勢のまま固まって落ちていったりする場面が続出でイラリとする場面も多々ありますが、例によってマリオは大量に増殖できるので無問題でした。初心者救済のために、死にまくっていると出てくる白タヌキスーツなるアイテムもあって、なんだよこれ無敵過ぎじゃんチートだろチート!などと思ってましたが、一周クリア後はコレが登場しなくなり、さらにスペシャル面は難易度が昨年のオイラの尿酸値のように高騰するので白タヌさんチートなんて言ってすいやせんへへ、あのもし良かったらちょっと出てきてはくれませんかね。などと思うことしきり。


クリア後にアンロックされるスペシャル面は、多少歯ごたえのある面からなにコレ無理ゲーじゃないのと思う理不尽面までありますが、ちゃんと頑張ればクリアできるようになっているので大丈夫です。とはいえ高次面では制限時間が極端に短いステージや、マリオの動きをトレースしてどこまでも追ってくる(つまり動かないでいると当たってしまう)極悪な敵キャラ、マネックが登場するステージが繰り返され、正直これらのステージはじっくり遊ぶという感じが無くストレスがたまります。この2つの複合ステージなんかもう鬼ですよ。なんどギブアップしようと思ったことか…。


しかし繰り返しやっているうちに身体が攻略を覚えてゆき、そういう鬼の面をも乗り越えてしまえますからよく出来てますよ。そうして通常面、スペシャル面を全クリ、スターもコンプリート、さらにルイージでも全クリ…とさんざんやり込みましたら、最後にアンロックされるファイナルステージが出現。完全クリアを目指して挑んだものの、こればっかりはあまりに難易度が高くギブ。攻略サイトでマップを見た瞬間心がベッキリの閻魔ステージですわ。これクリアした人はホントにすごいと思います。

棄本日記2012/3

ここ最近手放した本の記録。



・「ひまわりっ 健一レジェンド」全巻/東村アキコ

ひまわりっ ~健一レジェンド~ 全13巻 完結セット (モーニングKC)

ひまわりっ ~健一レジェンド~ 全13巻 完結セット (モーニングKC)

モーニングでの連載時に面白かったので買って読んでみた。最期まで読まないと気が済まなくなり全巻買ってしまった。結果、読んで気が済んでしまったので長らく本棚の肥やしに。が、段々本棚も埋まってきたし、新たなスペース確保のため本の状態が良いうちにと売却。前半は超ハイテンションな実の父に打ちひしがれる娘の耐える姿を描き、後半は都会での自立を目指すオタク少女の生き様を描いた感動作(ほんのり嘘)。なお、今回手放すにあたり、もう一度頭から読みなおそうとしたらお父さんの行動が余りに斜め上過ぎて、笑いよりも振り回される家族への気の毒さが先に立ってしまい、いたたまれなくなって読むのを断念。


ワンダーJAPAN Vol.1〜16

ワンダーJAPAN16 (三才ムック VOL. 304)

ワンダーJAPAN16 (三才ムック VOL. 304)

日本初の?廃墟珍スポマガジン。創刊当初は余りにマニアックな内容の余り、一体誰が読むんだ…オイラか。と感動のあまり購入。その後飛び飛びに買っていたものの、軍艦島を特集したVol.3だけを買い逃してしまい、歯抜けの状態になっているのが我慢できずについネットで古本をポチッてしまったのも今や思い出。その後Vol.16まで買い続けるも、特集が円筒分水とか公園遊具とか、自分の嗜好とはやや離れてきたため自然に購入ストップ。本棚のスペースが圧迫されてきたのでコレも状態の良いうちに放出。

寿司屋のカツ丼は意外と美味かった『カーズ2』

カーズ2 DVD+ブルーレイセット [Blu-ray]
監督:ジョン・ラセター。前作で生意気野郎から一転してまごころガイとなったライトニング・マックイーンちゃんが今度はワールドシリーズで大暴れ。日本、イタリア、イギリスと世界を股にかけて大レース!しかしひょんなことから相棒であるレッカー車のメーターとの友情にヒビが…!果たしてレースの行方は?そして二人の友情は?


…という内容だけであれば真っ当な続編なのだなあといろんなモノが腑に落ちるのですが、実際はこれに「ガソリンに代わる新燃料をめぐる陰謀」「悪の組織と戦うスパイカーとその助手」という新要素が入ってきたため、『カーズ』とスパイ映画を足して2で割らなかったような混沌の度合い激しい内容になっています。そもそもなんで『カーズ』の続編でスパイ映画のパロディをやろうとしたのか。おそらく企画会議が紛糾し深夜から未明にまで及んだ結果、参加者全員が明け方特有の変なテンションにつつまれて「スパイ映画とかいんじゃね?」「ボンドカーやるか!」「うはwwwwwそれwwwwwワロス」などと盛り上がってしまった結果が何かのハズミで正式採用になってしまったのではないか。前作の人情路線からハチャメチャスパイギャグへのシフトにはそのような事情が…、と思い込まなければ納得できない不可解さですが、しかし誰も止める人、おらんかったんやろか。


このような路線変更のためかこの映画の評価はイマイチ低めで、2011年のアカデミー賞でもピクサーが初めてノミネートを逃したのが地味に話題になりましたが、観た者からすればそれも止むなし。例えて言うなら『英国王のスピーチ』の続編が『英国王のスピーチ2/カミカミ王子を愛したスパイは美人秘書!陰謀うずまく愛欲の湯けむり温泉は滑舌にもグー』になるような変貌具合ですから前作を愛しておられた方ほどアゴの外し具合は激しいと思われます。前作が好きすぎるあまり数十回にわたって鑑賞したウチのボンズもこの続編には納得が行かなかったようで、『2』のディスクを再生するとみるみる表情が曇ってゆくので泣き止ましなどの用途には使えませんでした。


まあ前作のハートウォーミン成長物語の続きを期待する向きにしてみれば、そのような反応になるのは致し方ないところですが、しかしちょっと待って欲しい。この映画を、ピクサーが作った60年代スパイ映画のパロディとして捉えた場合、どうなるか。…というと、結構いい出来なんですよ。これが。


映画は、海上に浮かぶ原油採掘プラントに一台のスパイカーが忍び込むところから始まります。潜入!スパイ!取引されている謎の武器!謎の教授!秘密兵器で隠し撮り!スパイカー敵にみつかる!激しいカーアクション!爆発!まんまと逃走成功!…と、これだけでもう007のアバンタイトルそのままのノリ。ここでねっとりした主題歌が始まりタイトルバックにセクシーな車のシルエットがくねくね、とまでは行かないのが惜しいくらい。車が擬人化された世界という設定を存分に活かし、車のボディに仕込まれた秘密兵器もバンバン使われます。このスパイカーの名前がフィン・マックミサイル、その助手の女の子(ボンドガールに相当)の名がホリー・シフトウェルと、全くもってイアン・フレミング風味なのも「判ってるな!」と高ポイントです。さらにフィン・マックミサイルのデザインは往年のボンドカー、アストン・マーチンDB5を彷彿とさせるクラシックなフォルム。いやー心にくい。


さらにこいつが日本の繁華街を舞台に激しいアクションを繰り広げるという007は二度死ぬ』もかくやのシーンがタップリと入っており007ファンのニヤニヤは止まりません。日本といえばスパイ映画においてはエキゾチックジャパーン極まる壮絶な勘違い描写の連発が常ですが、さすがに東京の街をロケハンしただけあってニンジャやゲイシャがピンピン襲いかかってくるようなキテレツな事態にはなっていません。デフォルメされつつもかなり真っ当に描かれております。まあその筋の愛好家にとっては少し物足りないかも知れませんが…。ただ、アメリカ人から見た今現在の日本のイメージ、日本人とは異なる位相でとらえた東京の街が描かれていて、面白いです。アメリカ人が見た東京の街とは、ネオンのジャングルであり、ハイテクとエキゾチシズムの共存であり、伝統文化とポップカルチャーの織り成すカオスである、ということがよく分かります。トイレがやたらハイテクに描かれてて大きなカルチャーギャップを生んでいるのも面白いですね。


舞台は東京からパリ、ロンドンへ。この世界旅行感もさることながら、ラストの舞台にロンドンを選んでいるあたりも007への目配せと言えましょう。特筆すべきはロンドンの曇天の空気感で、リアリティ溢れる絶妙なライティング。精緻な街並みの描写も相まって、擬人化された車のキャラがなければ実写かと見紛うような見事なシーンが展開されます。曇り空の光の感じ、湿った空気の感じが実によく出てる。ここはマジですげえ。


全体的にハンドルを斜め上方向に切ってしまったため、寿司屋に行ったら頼んでないカツ丼が出てきたようなミスマッチ感にあふれた映画ですが、このカツ丼が意外と美味かったという、スパイ映画好きにとってはウシシと楽しめるパロディでした。そっち方向から観てると逆に主人公と相棒の友情物語部分がなくてもいいよね、ということになりがちなのが痛し痒しというか、つまりファミリー映画としてはスパイ映画部分が余計だし、逆にスパイ映画としてはファミリー映画部分が余計だし、ということで、同じ映画の中に相性の悪い二本の本筋が入っているというのがこの映画の弱いところでしょう。この話、別にカーズのキャラでやらんでも全然いいよね、と思ってしまうのが続編としてつらい。果たして『3』はあるんでしょうかね。もしあった場合、いったいどのような路線になるのか、いろいろな意味で興味深いです。



反撃のゴスッ娘『ドラゴン・タトゥーの女』

ドラゴン・タトゥーの女 [DVD]
監督:デビッド・フィンチャー。主演:ダニエル・クレイグルーニー・マーラ。雑誌編集者のミカエル(ダニエル・クレイグ)は名誉毀損の訴訟に負けて仕事も貯金も大ピンチでしたが、突然大企業の元会長から調査の依頼が舞い込みます。「40年前に孫娘のハリエットを殺した犯人を探して欲しい」えっいやいやいやちょっとそれは。「受けてくれたら訴訟相手の弱みを教えるよ」「やります」という訳で犬神家もかくやのギスギス極まる一族相手に昔のことを根掘り葉掘り尋ねるというミッションの開始です。しかしこの一族、元ナチ党員がゴロゴロしているなど一筋縄ではいかないヤツらばっかりで調査は難航します。困った。助手がほしい。というわけで送り込まれてきたのが全身のピアスとブリーチした眉毛と余計なことは喋らない口がチャームポイントのゴスッ娘、リスベットちゃんでした。…というお話。


二時間半を超える長尺の映画で、観る前はケツが痛くならんかしら、などと心配でしたがそんな事は全く気にならず、一瞬もダレないまま映画はずんずんと進んでゆきます。この映画には3本の軸があって、ひとつは40年前ハリエットに何があったのか、というミステリー的な興味。もうひとつはミカエル自身が抱える問題(訴訟、雑誌社の命運、不倫)。そして最後の一本はリスベットという特異なキャラ自身。この全てが三つ編みのように絡み合って物語のうねりを生み出していき、緊張感を絶やさない演出や編集も相まって、猛烈に先の展開が気になる映画になっています。


3本の軸のうち、ミステリー部分については、ミカエルが過去の調査資料を丹念に洗って新事実をつかむあたりの展開が面白く、ミステリーの醍醐味がたっぷり。ミカエルの問題についてはそれほど比重が大きくないですが、演じているのがダニエル・クレイグで、しかもところどころに007を彷彿とさせるシーンがあり、007と本作のギャップにニヤリとできるという通な観方が可能です。途中ミカエルが狙撃されて走ったり、怪我を手当てするシーンが入ったりしてますが、007なら眉毛一つ動かさず機敏かつスタイリッシュに演じるところを、本作ではじつに情けなくヘタレに演じており、まあこうやってちゃんと差別化しとかないと何の映画観てるのか判らなくなっちゃうからなあ、と演技プランに感心するか、もしくは「ああっボンドがダサメガネを!」「VAIOじゃなくてMacを!」「ボンドが黒いブーメランパンツを!」「ボンドがこんなへっぴり腰な走り方を!」といった数々のギャップに倒錯した面白味を感じるか、まあ楽しみ方はあなた次第です。


最も重きを置かれているのが、この映画のタイトルロールであるリスベットちゃん。この娘が舐める数々の辛酸と、それを彼女がどのように跳ね返してゆくか、という点がじっくりと描かれます。前半、社会的弱者でもある彼女はその境遇を利用されてたいそう酷い目に合わされます。この映画がR-15であるのもこのシーンが理由で、ということでお察し頂けると思いますが、とにかくこのシーンが徹底的に観客を不快にするよう計算されており、そういう仕打ちを受けるリスベットの苦しみ、無念を彼女と同化して観客も受ける、というような構造となっていて、胸のムカつき具合は筆舌に尽くしがたいものがあります。私の友人の女性はこのシーンのためにこの映画を最後まで観られなかったといいますからハンパではない。


ただ、そこでしくしく泣いてばかりではなく、きっちり自分の流儀で反撃に出るのがリスベットちゃん。彼女がもっているキレキレの知能をフル回転させ、自分を辱めた相手に復讐し、大の男がさめざめ泣いてしまうドイヒーな目に遭わせます。そんな彼女ですから、女を踏みにじる者、例えばハリエットを殺した者…にはこの上ない追い込み甲斐を感じるのでしょう。ミカエルからの依頼をあっさり引き受けます。ここから彼女が発揮する調査能力の凄まじさも見どころです。


そして、リスベットという特異なキャラクターが、この映画を単なるミステリーから一歩踏み出たものにしています。他者から踏みにじられてきた女が、外敵から身を守るハリネズミのように自分を武装し、全身にピアスやタトゥーを纏って他者を寄せ付けないようにしている。が、そんな彼女が次第に心をひらいていったとき、そこには普通の娘と変わらない彼女なりの魅力があるのだ、ということが描かれます。調査が進むに連れて、ミカエルとリスベットの間にいい雰囲気が流れ始めますが、そのときゴスゴスの異貌の奥に垣間見える一抹のいじらしさ。そして、なぜ美しく聡明な娘がこうした凶暴な外見をまとわなくてはいけなかったのか、という理由。これらが丁寧に描かれ、映画は単なるミステリーにとどまらない深みを得ました。こうした複雑な役を演じきったルーニー・マーラがすごくいい。序盤の警戒心まるだしのキョドっぷり、中盤ひどい目に遭って傷つけられる姿、反撃に出た時の凶暴性、捜査に没頭しているときの凄まじい頭の回りっぷり、いざというときに見せる行動力と度胸、そして次第に見えてくるいじらしさ。これを全部演じ切ってます。アカデミー主演女優賞ノミネートも大納得。オスカー取れるといいなあ!