カジノロワイヤルの手帖

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マナーが人間を作るんですよ『キングスマン』

KINGSMAN: SECRET SERVICE

 

監督:マシュー・ヴォーン。主演:コリン・ファース、タロン・エガートン。高級紳士服のテーラーであるコリンさんは仏頂面と眼鏡が似合う嫌味たっぷりな英国紳士ですがそれは表の顔。実は正義の為に暗躍する組織「キングスマン」のエージェントなのでした。しかしある任務中キングスマンに欠員が出てしまいます。そこでコリンさんは命の恩人の息子であるタロン君を一流のキングスマンにすべく仕込み始めるのでしたが、彼は秘めた才能を腐らせたままボンクラ生活を送っており…というお話。

 

 

 


映画『キングスマン』予告編 - YouTube

 


マシュー・ヴォーンは『X-MEN ファースト・ジェネレーション』でも古き良きスパイ映画への愛を炸裂させており、特に60年代のスパイ映画のカッコよさを現代風に洗練させて再生産してきたのでアレ一本でこいつは信頼できるぜと思ったのですが、その期待に今回もバッチリ応えてくれました。ガジェットやファッションへのこだわり。古今のスパイ映画への目配せと愛情とパロディ化。それを今風のキレキレアクションに添えて送ってくる傑作です。


特に昔の007的な誇大妄想系悪役を敵に持ってくるあたりがオマエ判ってるな感マックスで、しかもそれがTEDでとくとくと喋ってそうなIT業界を牛耳るカリスマ億万長者というあたりが当世への風刺も効いてます。こういう悪役をチャラチャラに怪演するサミュエル・L・ジャクソンがちょう楽しそうですね。その手下のガゼルちゃんは両足が鋼鉄の刃物というこれまた007成分たっぷりの悪役で、もうこんな映画作ってて楽しくないわけがないじゃないか!マシューめ!


タロン君は典型的な英国下層階流のボンクラで、母親ともどもどうしようもない環境で暮らしているのですが、このへんのどうしようもなさをキチンと描いているのが今現在の映画としての矜持ですね。で、そんなタロン君を救い上げるのが終始仏頂面のコリンさんな訳ですが、そこで彼が発する「マナーが、人間を、作るんだ」というキメ台詞がポイント。人間の価値は生まれではなく育ちが決める。ちゃんとした教育と訓練が高潔な人間を作るのだ。という明快な主張が込められています。貧困も争いも、根本的に解決するにはしっかりした教育に如くものはない。というところまで踏み込んでいる。この映画が過去のスパイ映画とおおいに異なるところがあるとすれば、ココです。そういえばこの映画に出てくる氏素性のジョートーな方々っていうのが揃いも揃ってゲスだらけなのも「生まれだけ良くても人格が伴ってないとダメよね」ということなのでしょう。ついでに言うとこのゲスいセレブどもをドッカンドッカンゆわすクライマックスがもうサイコーです。黒い笑いが漏れます。こうした端々に込められたブラックなユーモアもたいへん英国的ですね。


ホントに仏頂面しかしていないコリン・ファースがすごく良くて、英国紳士のスマートなところもスノッブなところもひっくるめて全身で表現し切っているほか、中盤で見せる大乱闘アクションが想像以上に凄かった!カット割りほぼナシ(のように見える)長回しの超絶アクションをキレキレの動きでダンスのようにキメております。やるじゃないか英国王。この大乱闘シーンですがアクションの質といい量といい、キレてるだけじゃなくてちゃんと痛そうなところといい、ここだけでもこの映画を見る価値アリですね。スゴイよ!