カジノロワイヤルの手帖

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ストイックなのが玉にキズ『ジョン・ウィック』

JOHN WICK

監督:チャド・スタエルスキ。主演・キアヌ・リーブス。愛する妻に先立たれたジョン・ウィックさん(キアヌ)は寝ても覚めても悲しみにくれていましたが、生前の妻が「あなたには愛する対象が必要よ。車じゃダメ」と贈ってくれた子犬を唯一の慰めとして立ち直ろうとします。がそこは好事魔多し。ジョンの愛車の69年型ムスタングに目をつけたロシアン・マフィアのバカ息子が夜中にジョンを急襲。犬を殺して車を奪うのでした。これを知ったマフィアの親分の父ちゃんは「このバカタレが!」と息子をボコにします。「あの男はなぁ…」そうです。ジョンさんは元「殺し屋を狩る殺し屋」という古今ケンカを売ってはいけないランキングの永世首位みたいな人だったのです。父ちゃんが頭を抱えバカ息子がポカンとしている一方で、ジョンさんは地下室に秘匿していた武器の封印を解いて…。

 

 


上映時間101分。いいですねえこのタイトな尺。娯楽映画はこのくらいがいちばんよろしい。なので余計な愁嘆場もなく、切り詰めた見せ方で語られるストーリー。それ以外は延々アクションアクション!という割り切りがナイスです。新機軸のガンアクションとして「ガン・フー」という言葉が宣伝文句に踊ってたので「ガン=カタ」みたいなキレキレの面白銃撃戦を期待して観たのですが、そんな派手なものではなくもっと実戦向けに研ぎ澄まされた殺人術という趣きでした。柔術、柔道をベースに、ロシア軍特殊部隊の格闘術とか、C.R.Aという接近戦向けの射撃スタイルを取り入れてるといいますからまあ物騒。つぎつぎ襲いかかる敵を正確無比な動きで一人ひとり丁寧に殺していく、そのさまをカットを割らない長回しで魅せるというガチ極まりないスタイルです。さらによくありがちな早回しも使ってませんから、キレという意味では突出してないもののその分いっこいっこのアクションに重さがあります。痛そう。

 

 

 


面白いのがジョンさんをとりまく殺し屋業界模様で、ジョンさんが取り出した武器の隣に金のメダルが束になって収納されてるのでなんだこれ?と思うのですが、これが実は裏社会の皆様用の通貨でして、その筋の方用のホテルにチェックインするとメダル一枚。地下の秘密バーの入り口を開けるのにまた一枚。仕事をすませて掃除(死体の)を頼むとまた一枚。仲間に助けられたらそのお返しに一枚。という閉鎖世界の通貨の割には妙な駄菓子屋感があってなんだか面白い。ついでにこのホテルがまた凄くて、ホテル内での「お仕事」は厳禁、破った人は会員資格のついでに命まで剥奪されます。このあたりの設定や雰囲気がすごくアメコミっぽいので、もしやこの映画もアメコミの映画化か?かと思いましたがそんなことは無いみたいです。


バカとは言え息子は息子。というわけで部下に命じて息子を守らせる父ちゃんですが、そんなことはモノともしないジョンさんの鬼神っぷりに築かれる死体の山。かくて事態は全面戦争に発展してさらに死体の山の標高は高まるのでした。キアヌはストイックにアクションに徹しており、黒づくめの衣装も決まっていてナイス。無精髭を剃らないのはフェイスライン隠しか?と思わなくもないですがカッコイイです。ことの元凶であるバカ息子(アルフィー・アレン)のひょろひょろボンクラっぷりも絵に描いた如しで世界バカ息子映画の歴史に新たな1頁を残しました。


惜しむらくは演出がストイックに過ぎるというか、ケレン味に欠けるところで、アクションもリアリティ重視のためかキメにあたる所を欠いていたり、キアヌが啖呵を切るシーンでもタメが無いのでくう〜っ!と痺れる一瞬が来ない、というのが実に惜しいです。『マトリックス』なんかは今見るとアクションが意外にゆるく感じたりしますが、締めでキメてみせるカットがキチンとあるので見ていて「いよっ!」と言いたくなるのです。この差は大きい。続編が立ち上がったみたいですけど、そのあたりのツボを心得ていただければ、これはもう大変に痛快なアクション映画になりそうなので、期待して待ちたいと思います。