カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

円熟のボンドと終焉の予感『007 スペクター』(ネタバレ無し編)

「007/スペクター」オリジナル・サウンドトラック

 

監督:サム・メンデス。出演:ダニエル・クレイグクリストフ・ヴァルツ。開巻早々にメキシコで大騒動をやらかすボンドちゃん。上司のM(レイフ・ファインズ)は「ちょっと君やり過ぎ。おかげで00課が存亡の危機なんだよ。停職な!あとメキシコ行けなんて言ってないけどいったい何やってんの?」と怒り心頭です。しかし涼しい顔で受け流すボンド。彼にはMの命令を無視してまでも動く理由があったのです。今は亡き先代のM(ジュディ・デンチ)が残したビデオメッセージを元に、彼はある男を追っていたのでした。マネーペニー(ナオミ・ハリス)とQ(ベン・ウィショー)をガンガン巻き込みながら、男を追うボンドの前に現れたのはある謎の組織で…。

 

 

 


前作『スカイフォール』は007でありながら感動の名作っぽい手触り、というシリーズ史上稀に見る異色作でしたが、同時に以降のシリーズを古き良きフォーマットに戻す予告をしたこともあり、次の一手がどうなるのかが非常に気になるところでした。前作で名作方面に走ったのは賞レースへの色気を出した結果だと今だに思ってますが、その年のアカデミー賞では主題歌賞と音響編集賞を取ったものの、その他の部門では大きな成果がなくやっぱりちょっと無理をしたかね、という気がしないでもない。しかしシリーズがかつてなく格調高くなったという成果はあったので、今回もその方向性でいくのかなーという気はしてました。監督にサム・メンデス続投。悪役にアカデミー賞の常連クリストフ・ヴァルツ。主題歌もグラミー賞取ったばかりのサム・スミスで、曲調も『スカイフォール』以上にしっとり風。やっぱりちょっと色気はある?

 

 


では蓋を開けてみてどうだったのか。『スカイフォール』の沈鬱なムードは継承しつつ、しかし全体的にはシリーズ初期のフォーマットに努めて寄せようとしております。開巻劈頭のガンバレルシーン。タイトル後にオフィスで嫌味を飛ばし合うボンドとM。Qの怪しい研究室。秘密兵器搭載のボンドカー(久しぶり!)。大掛かりな悪の組織とその秘密基地。特にはしばしに出てくるお笑いシーンはクレイグ版ボンドに希薄だったもので、アクションに巻き込まれてオタオタする一般のオジサンが出てきたりするのに妙な懐かしさが。このようにシリーズ通してのファンにご納得いただけるよう前作から軌道をだいぶ戻してきた感があります。なんといってもタイトルからして「スペクター」ですよ。まさか21世紀になってこの名前を007で聞けるとは思わなかった。リブートの仕上げに思い切り念を入れてきました。権利関係クリアしたんでしょうね。良かった。本当に良かった。


その一方で、話がまたもボンドの過去にまつわるものなので前作を引きずった「過去の精算」的要素もあるのですが、陰鬱な方向にはそれほど振り切らないでバランスをとっています。そのため全体としては『スカイフォール』よりも格段に娯楽方面へシフトしていて、賞方面への色気は観ていてそれほど気になりません(結果としてサム・メンデスの作家性みたいなものはだいぶ薄まってますが)。過去の精算と言えば、過去3作を観ていないと何のことかわからない人物がぞろぞろ出てくるので、未見の方は先に予習しといた方がいいです。本作は今のところ『カジノ・ロワイヤル』以降四部作の完結編にあたると言ってもいい位置づけになってます(あくまで「今のところ」というのがポイント)。


前作では一度落ちぶれて、しんどい敵との対決を迫られ、実家に里帰りして自分の過去と対峙するというボンドちゃんのセンチメンタル・ジャーニー編でしたが、今回ボンドは完全に立ち直り、過去にも増して鉄の意志を貫く強靭な男として描かれています。特に今回は「守る(護る)男」としての側面が強い。先代Mの遺志を守る。相手が仇敵と言えども取引上の仁義は守る。狙われる女の命を護る。全くブレがない。そうした確固たるボンド像にダニエル・クレイグ自身の加齢も相まって、貫禄十分、円熟のボンドとなっており、そこにきて映画が定番のフォーマットに回帰したことで、クレイグ版ボンドがようやく完成の境地に至ったことを強く感じさせます。話がそれますがけど今回ダニエル・クレイグは往年の菅原文太や松方秀樹みたいな、つまり東映ヤクザ映画のような雰囲気をまとってる気がしてならないのですが、なんででしょうね。これも貫禄のせい?


アクション。前作ではちょっと予算ケチったかな?といううらみが多少ありましたが今回はいろいろ突っ込んできましたね。大破壊あり。空中アクションあり。ボンドカーの秘密兵器あり。雪上アクションあり。初期作へのオマージュとして狭い列車内での格闘あり。アヴァン・タイトルの飛んでるヘリ内部での格闘は、下に大群衆がいるもんですからヘリが格闘の影響でふらふら落ちそうになるたびに「ああっ下の人たちが!逃げてー!」とハラハラします。


細かいところはネタバレも含めて次回に書きたいと思いますが、初見の感想としては大変おもしろかった。シリーズをちゃんと古くからのファンの元に戻してきた感じがあり、そこに盛られているのは今風の素材、ということで新旧問わずファンはおおむね納得の内容だと思います。ただクレイグ版ボンドは完成までに至る紆余曲折や、あえてフォーマットを外してきたところに面白味があったため、完成形を見せられたことでこの路線の終焉を強く感じることも確か。ダニエル・クレイグの去就も含めてシリーズの今後のことをいろいろ考えてしまいます。あと結末についてはいろいろ言いたいことがある!しかしネタバレせずには語れないんだこれが!というわけでネタバレ編は追って書きますので少々おまちください。以上、よろしくお願い致します。

 

 

こちら今回の主題歌。名曲。


Sam Smith - Writing's On The Wall (from Spectre ...