カジノロワイヤルの手帖

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「書を捨てよ、町へ出よう」寺山修司

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)
「職業:寺山修司を名乗る著者が世間に向けて放ったさまざまな文章型パンチの集積。詩あり俳句あり短歌あり、評論ありエッセイあり、警句あり批評ありアジテーションありの寺山空中コンボ。平均化された毎日を生きるよりも、住居は橋の下でいいからスポーツカーを乗り回せ、三日はパンと牛乳のみで我慢して四日目にフランス料理を食いに行け、という経済暴力としての一点豪華主義というくだりがあって、これはおそらく当時の不景気な世相が背景にあるんでしょうけれども、バブルが崩壊して空白の十年があってやっと景気が上向いて来たと思ったらスタグフレーションが来て踏んだり蹴ったりな今の団塊ジュニア以下の世代にもピンと来る思想と言えます。何より経済暴力という言葉がいい。ただしこの思想は背景に相当追いつめられた経済的な閉塞感があるので、不景気とはいえども一定の豊かさが浸透した現代にはまた別の経済暴力のメソッドが要るでしょう。


あと、妙に心に引っかかったのが次の警句。
「(前略)なぜならば、その時代の少年犯罪こそが、その時代の国家犯罪の反映だと思われるからである。」
国家犯罪というのは、利権体質とか企業不正とか、あるいは政府官僚役所の無為によって起こる有形無形の弊害とか、ひいては社会の営みそのものとか、そういうものを包括していると考えると、なかなか痛い所をえぐっていると思います。


と、真面目にアジってるかと思えば、好きな競馬について延々と語ってたり、「自殺学入門」という本気と冗談が混じった指南書が入ってたりとかしててウヒヒと笑えるところもあってお茶目です。