カジノロワイヤルの手帖

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「津軽」太宰治

津軽 (新潮文庫)
今月末から来月頭にかけて、土日祝日代休を使ってどっか旅行いこう!と思い立ち、妻と二人でどこに行こうかと散々迷いました。九州…行きたいところがありすぎて日程が全然たりん。知床…車での移動時間が長そうなのと、歩きの時間もけっこうありそうなのでパス。山陰にいって出雲大社水木しげるロード三次市稲生物怪録ゆかりの地を廻り…いやこれも遠いな。もっと近場でピンとくるところはないかしらん…と考えてピンと来てしまったのが、青森県津軽半島。折しも今年は太宰治生誕百周年にあたり、太宰の故郷である津軽半島はさぞや盛り上がっておるに違いない。さいわい自分も妻も太宰ファンですし。というわけで旅程を決めて宿と足を押さえてあとは当日を待つばかりの段取りとなっております。


その旅行に携えていこうと思うのが、そのものズバリ、太宰治の「津軽」の文庫本。太宰の諸作の中でもこの作品は大好きなものの一つで、とくに終盤、乳母のタケを探して小泊の村を右往左往し、そしてついにタケと再会するあたりのくだりは何度読んでもドラマティックですし、暖かい感動を呼びます。太宰の小説と言えば、「斜陽」「人間失格」のような退廃的で内向的で暗いものを連想しがちですが、「津軽」は軽妙で洒脱な文章と、滑稽でときにはスラップスティックですらある人間観察、太宰自身と彼をめぐる人々の細やかな交流、そして太宰治自身の自虐ネタによるユーモア。と、決して暗くなく、むしろ清々しい明るさと幸福感すらたたえた作品です。


長く故郷を離れていた太宰が、四十路の坂が見えて来た時期に(丁度自分とおなじくらいか…)に、自分の半生を見つめ直すべく、生まれ育った津軽半島を旅行し、ゆかりの人々を訪ね歩くという一種の紀行文で、読み始めると濃厚に漂ってくる旅情。ふと何気なく読み始めたのですが、読んでるとこれは辛抱たまらん。早く旅に出たい。とソワソワが止まらなくなる旅行好きにはたまらない一冊。もっと旅程に予定があれば、この本の太宰の足跡をそのままたどってみるという旅にしたかったな…と思わず目が遠くなります。手持ちの文庫を一冊携えて行きますが、そちらは妻に渡して、オイラは青空文庫のテキストをiPhoneに入れて携え、豊平文庫という電子ブックアプリで読もうと思っています。