カジノロワイヤルの手帖

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バリー・リンドン

バリー リンドン [DVD]
監督:スタンリー・キューブリック。主演:ライアン・オニール。いやーかれこれ10年くらい前、DVDデッキを初めて手に入れたころにソフトが安かったので衝動買いしてたのですが、何のはずみかそのまま塩漬けに。以来本棚の肥やしとして寝かせ続けていたところ、このたびオイラの気まぐれによってついに鑑賞の至りに。内容は、アイルランドの平民レドモンド・バリーが、いかにしてイングランドの貴族バリー・リンドンに成り上がったか、という第一部、そして成り上がったバリーがいかにして没落したかを描く第二部、の二部構成。全編合わせて三時間以上。うっへー。と、アウトラインだけ読むとNHK大河ドラマ総集編みたいな波瀾万丈の壮絶な人間ドラマっぽいのですが、そこはそれ監督がキューブリックちゃんなので、一筋縄では行く訳がないのでした。


この映画について良く言われる、全編自然光メインで撮影した映像と、精密な考証に基づいた美術・衣装とが織りなす凄まじいまでの映像美は圧倒的です。キューブリックは夜のサロンのシーンをロウソクの明かりだけで撮影するために、超高感度のカメラを特注して撮影に挑んだといいますから鬼。そして撮影、美術、構図の三位が一体となった映像美は比類が無く、「まるで絵画を観ているよう」で、キューブリック映像の鬼を通り越した変態っぷりにただただ圧倒されます。


物語も、例によって登場人物をチェスの駒のように扱うキューブリック節。あらゆる感情的なバイアスを排して時計仕掛けのような精巧な映画を撮ろうとした結果、ギャグにもシリアスにも取れる奇妙な味になってしまった、という作品がこの人のフィルモグラフィにはずらりと並んでいます。『時計仕掛けのオレンジ』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』『アイズ・ワイド・シャット』…。で、『バリー・リンドン』もそんな系譜に並ぶ映画だったわけですが、これが自分にとってはついウヒヒと笑ってしまうブラック・コメディでした。


そもそも、主人公のバリー君は基本的にその場を何とかする事しか考えていないボンクラで、「たまたま」「運良く」が重なって気がついたらアイルランドの田舎からヨーロッパの上流階級に紛れ込んでしまった、という映画史上稀に見る神ボンクラ。これをハンサムではあるが表情に乏しい顔面のライアン・オニールが天然で演じており、バリー君のボンクラっぷりに半端無くターボがかかってます。絶妙のキャスティングと言うほかはありません。このバリー君の何も考えてません的な頭脳のカラッポさ、18世紀ヨーロッパの上流階級の風俗の滑稽さ、時々出てくるスカシ芸的な脱力描写がフォーメーションを組んで襲いかかってくるのでこちらとしてはどうしてもクククと笑ってしまうわけです。


時計仕掛けのような映画とはいえ、波瀾万丈の物語と凄まじい映像美、そして時々襲ってくるブラックかつ乾燥した笑いで3時間の長尺を全く感じさせない傑作。キューブリックの他の作品のインパクトの陰に隠れがちな一本ですが、必見です。画質のよい環境での鑑賞を強くおススメします。