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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

真の恐怖映像『この子の七つのお祝いに』(ネタバレ有り)

映画

あの頃映画 「この子の七つのお祝いに」 [DVD]
監督:増村保造。出演:岩下志麻根津甚八岸田今日子杉浦直樹いやーこれはマジで怖いもん観ちまったぜ!こんなん観たらもう布団かぶって寝るしか…。ルポライターの杉浦直樹は、怪しげな手相占いで政界を裏から操ると言われる謎の女「青蛾」の謎を追っておりましたが、情報提供者が惨殺されたため「これは久々にデカいヤマにぶち当たったか?」と大ハッスル。後輩の根津甚八を巻き込んだり、バーのママの岩下志麻とねんごろになったりしながら事件の核心に迫っていきますが、真相にぶち当たった直後に変死。根津は杉浦の仇を討つべく調査を引き継ぐものの、浮かび上がって来たのはなんと岩下ママでマジっすか。というお話。


原作は斎藤澪の第一回横溝正史賞受賞作で、出版当時は映画化の話題もあって随分評判になってた気がします。童謡を引用したタイトル、ビジュアルのキーイメージが日本人形、と日本的なオドロオドロしさがスパークしており、角川書店金田一耕助シリーズ終了後の後釜を創ろうとしていたのが判りますが、うまくいきませんでした。まあミステリーとしては岩下志麻が最初から犯人にしか見えないのはどうなのかとか、余りにも救いのない真相と結末とか、金田一シリーズのようなユーモア味もなくて実に潤いがないとか、いろいろ理由はありそうなのですが、一番の原因は「ガチで怖すぎた」というところではないかと。


ここから先はネタバレますが、いやー何が怖いって岩下志麻の母役の岸田今日子ですよ!この話は夫に捨てられた岸田今日子が、その恨みを娘の岩下志麻に子供の頃から吹き込みつづけ、長じた岩下が父への復讐のために邪魔する人間をザックザック殺してゆくというものなのですが、その回想シーンでの岸田今日子があまりにもガチ。夫が自分から離れそうになり、夜中に暗がりで「殺してやる…」とぶつぶつ言いながら豆腐や大根にみっしり縫い針を突き刺すサイコ今日子。夫が隠れて他の女に会っているのを「知ってるのよ…」と病んだ眼でクスクス笑うストーカー今日子。娘に父親への憎しみを刷り込むため、本当は金を持っているくせに貧乏のフリをして娘を飢えさせる虐待今日子。夜な夜な寝物語として娘に父への恨み事を聞かせ、話が佳境に入ると発作的に針で父の写真の顔のところをププププププと針で突く今日子地獄突き。最終的に娘の布団の中で手首を切りトラウマを完成させて果てる今日子メガンテなど、各種取り揃えたスキのないフォーメーションで迫り来る今日子の恐怖!五十路とはいえまだまだ女の色気が残っている頃の岸田今日子が、艶然というか、妖艶というか、妖怪というか、そういうノリでネッチョリと演じており、その恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。あまたのトラウマ映像が束になってもかなわない、真の恐怖映像ここにありです。


さらに、娘の岩下志麻もそのような英才教育のたまもので鉄壁のメンヘラに育ち、残っていた正気も脳裏に蘇る母の声でかき消されズンバラズンバラ人を殺すのでした。正気を失って「おかーさーん!」と極妻ボイスで叫びながら刃物をふるう姿は余りにも恐ろしい。さらに最後、すべて自分は母の妄執に動かされていたことを悟った岩下はドスの効いたボイスで「この子の七つのお祝いにぃ〜…暗いよ、さむいよ、おかーさーん!」と歌いながら壊れきるのでしたが、これがまたつい目を背けたくなるいたたまれなさで観客の心象風景はお通夜です。語り草なのが事件の手がかりとして出てくるセーラー服姿の岩下志麻の写真ですが、こんなイメクラみたいな高校生がおるか!同様にこの時既に五十路を超えていた岸田今日子がピチピチ若妻の役を物の怪のように演じているのも怖い。この二大女優の面妖演技があの増村保造のコッテコテやりすぎ演出でブーストされ、下手なスプラッターよりも激しい血しぶきとか、役者の息止めがつらそうな血まみれ死体の長写しとか、血のように真っ赤な夕焼けの部屋で不気味に佇む日本人形とか、この時期の日本映画としてもかなりどうかしてる感じにあふれています。長らく忘れられていた映画ですが、この怖さはひょっとしてこれからカルト化するんじゃないのか。今後の再評価に期待したいところです。