カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

ステイホームちょう大事『クリスタル殺人事件』(1980)※微妙にネタバレあり

クリスタル殺人事件 [Blu-ray]

 

 

原作:アガサ・クリスティー。監督:ガイ・ハミルトン。出演:アンジェラ・ランズベリーエリザベス・テイラーロック・ハドソンキム・ノヴァクトニー・カーティス。往年の大女優マリーナ(エリザベス・テイラー)と、その夫で監督のジェイソン(ロック・ハドソン)。マリーナは心を病んでいたため長いブランク状態にありましたが、再起を賭けて新作の撮影に臨みイギリスの片田舎に長期滞在中。かつての名女優を歓迎して村は総出でお祭り騒ぎです。そのパーティの席上で地元の女性が毒を盛られて死にます。この不可解な事件に首を突っ込むのがご存知ミス・マープルアンジェラ・ランズベリー)。彼女は持ち前の推理力とおばちゃん特有の圧、そしてスコットランドヤードの警視である甥の社会的地位を存分に活用して事件の真相を探るのでしたが…。

 

 

※以下ちょっとだけ結末に触れます

 

 


圧がすごい

 

 

 


これ、2020年の3月末にNHK-BSで突然放送されまして、いやなんで今、半ば忘れかけられていたこの映画を…?といぶかしく思う反面、まさかこれはあえて今放送したのでは…とも思われる内容のタイムリーさ。いやあステイホームちょう大事やん…というNHKからのメッセージ。アガサ・クリスティーの「鏡は横にひび割れて」の映画化ですが一口で言うと「感染症にかかった人間がのこのこ出歩いてはしゃぎ回った結果起こった取り返しのつかない悲劇」という内容なので今のご時世的には何というか大変に大変な内容です。お前ら家にいろ!NHKの熱い編成魂を感じます。

 

 

と、現在からの視点ではどうしてもそうなるのが何かと辛いですが、映画自体はそれとは程遠いのどかさにあふれております。1950年代英国の田舎ののんびりした人情風俗。田園風景に囲まれたほっこり系の暮らし。そこに往年の名優たちが英国流の嫌味をピッピと飛ばし合う演技合戦がトッピングされ、まるで3時の紅茶をいただきながらBBCを見ているような味わいです。何かとギスギスした当世にはピッタリの癒やし系ミステリーといえます。まあ癒やし系なのでミステリーとしての興味はどうなのか、という点には目をつぶりましょう。

 

 

豪華スターはそれぞれが水を得た魚のごとく持ち味を野放図に発揮しており、これまとめるのはさぞ難儀だろと監督の気苦労に思いを馳せてしまいますが、007で有名なベテランのガイ・ハミルトンなのでそこはそれうまく切り回したのでしょう。007といえばかつて『ダイヤモンドは永遠に』でブロフェルドを演じたチャールズ・グレイがニコリともしない執事役で出てたり、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』でMを演じたエドワード・フォックスが警視役で飄々とした味を出しております。びっくりするところでは無名時代のピアース・ブロスナンがちょい役で顔を出しており、エリザベス・テイラーの胸にかき抱かれるという新人にはあまりにキツい役をやらされてました。相手が相手なので現場でトチらなかったかどうか心配ですが、15年後にはこの兄ちゃんがボンドになるんですから運命はわかりません。

 

 


大御所に撫で回されて固まる新人

 

 

「鏡は横にひび割れて」"The Mirror Crack'd"という原題はテニスンの詩からの引用ですが、それがどう交通事故を起こせば『クリスタル殺人事件』という邦題に化けてしまうのかという点については、日本公開:1981年、配給:東宝東和、という背景からなんとなくお察しください。すごいのは当時の日本版ポスターで、映画には全く出てこないビッグベンが堂々とフィーチャーされており、アメリカのド田舎が舞台の『ランボー』のポスターに摩天楼の絵がしれっと描かれていたのと同様の東宝東和イリュージョンが炸裂しています。すごい時代でした。

 

 

f:id:casinoroyale:20200504104717j:plain

こんなシーンは全く出てきませんよ

 

なんとなく、クリスタル (新潮文庫)

なんとなく、クリスタル (新潮文庫)

  • 作者:田中 康夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫