カジノロワイヤルの手帖

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活魚感『テンタクルズ』(1977)

テンタクルズ 40周年特別版 [Blu-ray]

生頼範義先生!

 

 

監督:オリバー・ヘルマン。出演:ジョン・ヒューストン、ボー・ホプキンス、シェリー・ウィンタースヘンリー・フォンダアメリカのとある海辺の街。ここの海で不可解な変死が相次ぎます。死んだ者たちは内蔵や骨の髄を何やら強烈な力で吸い尽くされていたのです。事件を追うベテラン新聞記者のジョン・ヒューストンは最近このあたりで開発工事をしている企業が怪しいと睨み、そこの社長(ヘンリー・フォンダ)をしつこく追求して嫌がられる一方、海洋学者のボー・ホプキンスに調査の協力を依頼。学者は工事現場近くの海底で大量のマグロが逆立ちしたまま死んでいる現場を発見し、何らかの電波が海の生物を狂わせていると推理。実はその企業は法令に反して現場で異常な出力の電波を運用していたのでした。一方ボー・ホプキンスの奥さんやその家族は電波の影響で凶暴化した巨大なタコに襲われて全員死んでしまいます。悲しみにくれる彼は飼育しているシャチ2匹を連れてタコ討伐に出撃するのですが…。

 

 



 

いやあこれは思わず唸るトンチキでしたねえ。思い起こせば幼少の頃父が買っていた「スクリーン」誌で、海に浮かぶ女性の背後に巨大なタコの触手(テンタクルズ)が迫る、という不気味なスチールを目にして以来ずぅぅぅぅっと気になっていた映画でした。当時はあの『ジョーズ』に続く海洋パニック映画として鳴り物入りでの本邦公開だった模様。それもそのはずで『ジョーズ』の大ヒットを目の当たりにしたイタリア映画界がお得意の節操のなさを存分に発揮、またたく間にでっち上げて豪華キャストのネームバリューで世界中に売りまくった二匹目のドジョウならぬタコ映画なのでした。気になるあまり20年くらいまえにレンタルビデオで観ましたが、余りの詰まらなさに呆然とした覚えがあります。それを2020年の今になって突如BS-TBSが放映。しかも吹替版。いくらステイホームで皆が家にいるとは言え何故わざわざこの映画を選び放映するのか。何かヤケッぱちめいた意気込みを感じますがそれに応えて思わず私も録画予約をピピッと敢行です。

 

 

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いやこのカットなんですけどね

 

 

冒頭にも書いてますがキャストが妙に豪華。アカデミー賞級の俳優がずらりと揃っています。みんなお小遣いに困ってたのかな?これだけの名優を集めた上でその良さを活かさないというぜいたくな演出方針が光っています。ヘンリー・フォンダに至っては推定拘束時間半日くらいじゃないか。この手の映画の常連とも言えるシェリー・ウィンタースを確保したところは偉いですがおなじみ『ポセイドン・アドベンチャー』のような体を張った見せ場はなく、タコ大暴れのシーンでも終始陸地でオロオロしているだけという比類なき無駄遣いです。前半は因業な新聞記者を独特の悪人面で演じていたジョン・ヒューストンも、後半海上が舞台になるとまるで最初から居なかったかのように出番が消え、追求していた企業との戦いもウヤムヤに、というそんな面倒くさい話はもうどうでもいいでしょう、それよりタコ見なさいよタコ。という作り手の投げやりなまごころがビンビン伝わってきます。

 

 

そのタコですが、水面に目のところだけ出して直線の動きで突進してくるシーンが繰り返し繰り返し出てくる以外は、ほとんど本物のタコを船の模型とたわむれさせているだけ、という正直さで、そりゃまあ欧米の皆様は普段タコの生態などお目にされておられぬかも知れませんが、こちとら魚河岸や市場で日頃から生きたタコには親しんでいるのでどうしても活魚感を否定できず、つい「おっ活きがいいな」などと思ってしまいます。作り手も一応巨大感の無さをなんとかしようとしたのでしょう、海中シーンはひたすら画面が暗くてよく見えない方式という思い切ったソリューションです。かつてVHSで見たときは何が起こっているか全くわかりませんでしたが、今は技術の進歩によりご家庭でも明るいHD映像で観ることができ、タコのスケール感を忠実に感じ取れます。痛し痒しです。

 

 

ボー・ホプキンスは日頃から可愛がっている2匹のシャチを引き連れてタコ討伐へ。心が通じ合っているシャチに「おれの女房もやられた」「あいつを殺せるのはお前らしか」「たのむ」と直球でお願いしますが、タコにケージを壊されて外海に出たシャチ君らはテンション高まったのか「わー」とどこかへ行ってしまいました。どうすんのこれ。と思っているうちにタコ様が襲来。海に潜ったボー・ホプキンスとその弟子はタコに襲われたはずみで崩れてきた珊瑚の下敷きになり動けなくなってしまいます。いやこれ、マジでロケ地の珊瑚をバリバリ破壊してないか…?大丈夫か…と意図しないところで手に握る汗。

 

 

そこへ襲いかかってくるタコ様。画質が明るいのでのたくる活魚感を存分に味わえます。あやうし!と思っているところに突然アベンジャーズのごとくシャチ君ズが登場!巨大タコを右から左からモリモリかじります。左右からシャチのプロップに噛みつかれてのたうち回るタコの迫真の演技は必見。最後は8本ある足の2本くらいをかじり取られてズルズルと海に沈んでいくのでした。なお、このタコはあとでスタッフが美味しくいただきました、というようなことはないんだろうなあ、やはり。

 

 

全体的に、巨大に見えないタコ、盛り上がらない演出、ちっとも面白みのないストーリー、なのに商売っ気はたっぷり、など、援護したくなる要素が皆無という業の深い映画でした。そんななか特筆したいのは微妙に浮かれた音楽。緊迫するタコ襲撃の場面でもなんとなく小洒落たディスコ調でただでさえ盛り上がらない映画を亜空間にいざないます。この雰囲気の合ってなさはある意味すごい。1977年当時はこういうのもアリだったのでしょうか。昔はカオスでした。

 

 

ファッションショーみたいなオシャレ感

 

 

吹替版の放送だったんですが、78年のテレビ放送時の音声そのままらしく、昔の洋画劇場の雰囲気が味わえてこの部分だけは思わぬ拾い物でしたねえ。アドリブの効き方なんかは当時ならではの味です。途中のパレードのシーンで現地のスタンダップコメディアンがつまらないアメリカンジョークをくどくどくどくど喋り倒すタルいシーンがあるんですが、その吹き替えの声とアドリブの入れ方になにか聞き覚えがある。これ愛川欽也じゃないのか。いや間違いない。キンキンだろ。こういうおもわぬ掘り出し物があるのは楽しい。というかそれくらいしか楽しみがない。つらい。

 

 

なお、昔わたしが惹きつけられたところの「海に浮かぶ女性の背後に巨大なタコの触手」のカットは本編には全く出てきませんでした。嘘でしょ。しかし一回観といて詰まらないとは分かっているクセに、放送されるとつい観てしまうこの私のサガがにくい。恐ろしきは幼少時のオブセッションです。三つ子の魂百までとも申しますから、多分死ぬまでにあと2〜3回くらいはうっかり観てしまうんじゃないか。ええー。以上、よろしくお願い致します。