カジノロワイヤルの手帖

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「事件」大岡昇平

事件 (新潮文庫)
昭和53年度日本推理作家協会賞受賞作。映画化歴、ドラマ化歴あり。という予備知識を持って読みましたが、これは厳密には推理小説ではなかったです。ありふれた田舎の殺人事件を題材に、その裁判の過程をまるで教科書をひもとくように描いてゆきます。これは裁判の一部始終を、日本の裁判制度に対して詳しい解説を加えながらその過程を緻密に追って行った本であり、まさに裁判の教材とも言うべきマニュアル小説でした。しかしそのマニュアルっぷりを貫きながら図らずも推理小説として成立させてしまったところにこの作者の構成力を感じます。裁判の過程を通して浮かび上がる複雑な事件の背景と、それをあぶり出す裁判制度そのものがこの小説の主役、という異色の推理小説。これは映画版観たいな。