カジノロワイヤルの手帖

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「法月綸太郎の冒険」法月綸太郎

法月綸太郎の冒険 (講談社文庫)
新本格の作家群のなかでもこの人の本はまだ読んでなかったなあ、と思ったのと、鯨統一郎の「推理作家チャート」にてミステリ度もロジック度もパンパンに振り切れるポジションに置かれていたので興味を引かれて購入。まあタイトルから察せられる通りの中短編集です。書名はコナン・ドイルから。著者名は小栗虫太郎の小説の探偵役を彷彿とさせ(Wikipediaでは元ネタは別とされてますが、どうしても連想しますよ)。そして著者本人が探偵役として自作に登場するのはエラリー・クイーンから。とミステリ好きとしては「あなたも好きねえ」とニヤニヤ顔でそっとささやきたくなるオマージュの空中コンボです。


で、本作ですが…当たりでした。特に冒頭の中編「死刑囚パズル」と、一風変わった人肉食の考察「カニバリズム小論」が秀逸。前者は「死刑執行の直前に毒殺された死刑囚」という不可解な謎と、ギチギチの論理と消去法で犯人を絞り込んでゆくロジックの過程が面白く、これまたクイーンの「Zの悲劇」を彷彿とさせる終盤の謎解きが圧巻。フーダニットとホワイダニットの二つの興味で読ませる傑作です。後者は「なぜ男は同棲相手の女を殺してその肉を食べ続けたのか」という事件の謎を、古今東西の人肉食に関する様々なペダントリーをちりばめて解剖する一作。タイトル通りのカニバリズム小論としても面白いですし、結末も戦慄のひとこと。人肉食小説史(といま勝手に作りましたが)に新しい一行を付け加えるであろう傑作です。


その他、とある有名ミステリへの大オマージュともいえる「黒衣の家」などが秀逸。図書館をめぐる風変わりな連作短編も入っていますが、こちらはちょっと弱いかな。しかし十分心をつかまれたので続編と長編にも手を出したい所存であります。