カジノロワイヤルの手帖

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新しいホラーを目指すのか『樹海村』(2021)※ほんのりネタバレあり

樹海村〈小説版〉 (竹書房文庫)

 

 

監督:清水崇。出演:山田杏奈、山口まゆ。富士の樹海の奥にはその昔口減らしのために捨てられた者が生き残って村をつくっておったのじゃ…。という都市伝説に、ネット怪談としてつとに有名な「コトリバコ」伝説をミックスした一粒で二度おいしいホラー映画。前作の『犬鳴村』は…すいません観てません。今度地上波で放送するらしいので観ますから勘弁してください。監督は『呪怨』シリーズで全世界を恐怖のドン底に叩き込んだご存知清水崇。一時は実写版『魔女の宅急便』を撮ったりして好事家を惑乱させましたが前作と今作とで古巣に戻ってこられました。よくぞよくぞ。

 

 

とはいえ、世界を席巻したジャパニーズホラーのムーブメントからもう15年は経ち、そろそろ日本のホラー映画界にも新しい風を…ということでしょうか。『リング』の中田秀夫も、昨年の『事故物件 怖い間取り』で「ポップなホラー映画」を標榜してましたし、この『樹海村』も従来のジャパニーズホラーから一皮むけようとチャレンジを行っているような印象があります。

 

 

 

 

『怖い間取り』も『樹海村』もそうですが、VFXの使い方に躊躇がなく、むしろこれまで見たことがないような恐ろしいスペクタクルを生むべく積極的に使われている感があります。特に『樹海村』の場合、終盤に樹海の樹々そのものが怨念と融合し人に害をなすようなスーパーナチュラル描写があり、ここの場面は昔ながらの特撮とVFX、そして全身タイツの幽霊がよく融合してなかなかのおぞましさ。これまで日本のホラー映画ではCGをあまり全面に出さない感じがありましたが、もうそういうこと言ってたら同じような事しか出来ない、と作り手の意識も変わってきているようです。昨今テレビやネットに流布している心霊動画の類が年々あからさまなフェイクになってきており、なかには一見してCGだなーと分かるものもありますが、そういう動画に慣れきってしまっている若い観客を怖がらせるためには映画の方だって奥ゆかしくやってる場合じゃない!のかも知れません。人が死ぬ場面にしても直接的で、「衝撃映像」もかくやの前触れのない唐突な描写であっさり死んでいくという…。

 

 

良し悪しの話ではなく、今後こう言う方向性を突き詰めていったときに、ある日突然大変なモノが生まれてしまう可能性だってあるわけで、今はそれを見守りたいと、いちホラー映画ファンとしては思うのでした。

 

 

というわけで、かつてのジャパニーズホラーの特徴だった、特に小中理論に代表される「得体のしれない怪異」「ぼんやり映り込む幽霊」といった手法は出てきません。怪異は最初からより明確に害意を持つものとして出てきますし、恐ろしい映像は仄めかしやピンぼけ、ブレ味などを加えず直球の描写で迫ってきます。それは決して興ざめするようなものではなく、むしろ明確化することでよりはっきりとおぞましい意思/モノを見せる、という正方向のブーストがかかっています。そちらに舵を切ったがゆえに一個一個の描写がどれも禍々しいのです。

 

 


 

 

役者はいずれも好演で、主人公姉妹を演じた山田杏奈、山口まゆの両名はどちらも熱演。最近の若い役者さんはホント上手いな〜。しかしなんといってもここは出てくるだけで安心感と不穏さの両方を醸し出す國村隼がすごい。映画自体をキリッと引き締め安定させる要石のような安心感をもちつつ、つぎの瞬間何をやりだすか、言い出すか全くわからない不穏な感じ。もしあなたがうっかり樹海で迷ったとして、命からがら林道へまろびでてきたところに、富士山ナンバーの車が停まって出てきたのが國村隼だった場合、どうか。安心すると同時になんでよりにもよって國村隼なんだ、と思うのではないか。どうですか。

 

 

あと個人的にショックだったのが原日出子でねえ。最初主人公姉妹のお母さん役かと思ってたら、実はおばあちゃん役だった!というねえ。いや確かにそれなりにお年は召していらっしゃいますが、もうそんなふうに世代は移ろっているのだなあ、と複雑な気持ちになりましたよ。でお母さん役の方は安達祐実であるという、90年代を生き抜いてきた我々としてはここで激しい時の流れを感じざるを得ないわけです。ついでにいうとボーイフレンドのお父さん役が高橋和也(元男闘呼組)だったりとか…そらわしらも歳を取るわけよね。

 

 

 

 

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