カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近観た映画のメモ(2024年2月)

時間を作ってちまちま観ています。

 

 

レイジング・ブル』(1980)監督:マーティン・スコセッシ

 

レイジング・ブル [Blu-ray]

 

初見。「怒れる雄牛」の異名を持つ実在のボクサー、ジェイク・ラモッタの栄光とその内幕を、当時のイタリア系アメリカ人社会の裏表を絡めつつ描く伝記映画。主演のジェイクがロバート・デ・ニーロ、その弟がジョー・ペシで、マフィアも濃厚に絡んでくるため後の『グッドフェローズ』とか『カジノ』の原型を見る思いです。とはいえこの映画はマフィアではなく、ジェイク・ラモッタという良く言えば複雑な、悪く言えば人格破綻した人間にフォーカスしています。

 

このジェイクさん、打たれても打たれてもダウンしない強靭な肉体が武器ですが、一方で繊細というか細かいというか疑り深く、常に周囲の者を疑ったり勘ぐったりして揉め事を起こしまくるという一人いるだけで周囲がボロボロに疲弊してゆくタイプの困った御仁。弟のジョー・ペシや妻のキャシー・モリアーティは家族なので嫌々付き合ってますが積年の面倒事に疲れ果てていき気の毒度がマキシマムです。

 

一方本人のジェイクはそんな鬼めんどくさい性格ながら一本気で純情な面も持ち合わせており、マフィアに八百長をやらされ負けるとロッカールームで子供のように号泣したり、妻に暴力を振るったあとシュンと反省して仲直りをもちかけたりします。このように人間はそもそも多面的で筋の通らないのが本然で、良くも悪くもそこに人情、人間味があるのだとこの映画は語ります。友達の家で遊んでたらそこの父ちゃん母ちゃんが壮絶な夫婦喧嘩を始めたようないたたまれなさに全編満ちていて鑑賞にはカロリーを要しますが、そういう話でしか描けない人生の断面や滋味もあるのです。きっと。

 

デ・ニーロ・アプローチという言葉を生んだ役作りの徹底っぷり(体型の変遷をみよ!)も凄いし、引き締まったモノクロ映像で冷徹に悲喜劇を綴るスコセッシの語り口もよろしい。最後、コメディアンとして第二の人生を送るジェイクさんが、楽屋の鏡の前で独り言をつぶやき自分を鼓舞して本番に向かうくだりは後年の『ブギーナイツ』とか『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』といった映画に影響を与えているとみた。たいへん面白かったです。

 

 

 

 

 

ブギーナイツ [DVD]

ブギーナイツ [DVD]

  • マーク・ワールバーグ
Amazon

 

 

 

 

オリエント急行殺人事件』(2017)監督:ケネス・ブラナー

オリエント急行殺人事件 [Blu-ray]

 

初見。なお原作と1975年の映画版は各3度ずつ履修済み。クリスティのあまりに有名な原作(とその結末)をいま映画化する意味ってなんだろうー、と公開時には思ってました。1975年版は完璧とまではいかずとも非常に満足度の高い映画化ですし。というわけでネトフリに来たのを観てみました。

 

 

現代的な撮影、美しい風景、今現在のオールスターキャスト競演という新味はありますが、内容的にはそれほど新しい要素はなく、人種問題に意識的に触れてもいますが特に本筋に絡むところではありませんね。古典化したクリスティの世界への現代的な入り口として、豪華キャストとオリエント急行の贅沢な競演を楽しみつつ、フーダニットの醍醐味を味わっていただきたい…ところですが、2時間を割るというコンパクトな尺が災いしたのか、その辺の書き込みが駆け足なので最後の種明かしが唐突になった感じは否めません。惜しいな。絵的には凝っていて、12人の容疑者が「最後の晩餐」よろしく長テーブルに並んで座っているなどの印象的なシーンはよかった。

 

 

キャスト面ですが、ジョニデなど豪華キャストの陰に隠れがちな感じでオリヴィア・コールマンが出てて、同じ年にオスカー獲ったのですがこのころはまだ扱いがすごく小さく気の毒。またデイジー・リドリーが出てて、ススススター・ウォーズのレイ!レイやないか!元気か!と親戚の娘さんに久しぶりに会ったような気持ちになれます。ケネス・ブラナーのポワロは、朝食へのこだわりとか変なヒゲでキャラを立てようとしてますが、それでもイケオジ感が隠しきれません。もちょっと三枚目でも良かったかもね。